投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

THE UNARMEDの最初へ THE UNARMED 12 THE UNARMED 14 THE UNARMEDの最後へ

THE UNARMED-13

……どうかしている。
あれほど憎んでいて、あれほど苦しむ顔が見たかったのに。
俺の腕の中で涙を流す奴の姿に、俺の心がひどく痛む。
それよりももっとどうかしているのは、こんなにも心が痛むのに奴へのキスが止まらないことだ。
くそったれ、どうしちまったんだ?
キスだけじゃ足りない。
奴が欲しくてたまらない。
くそったれ、酔っているにしてはやけに頭がはっきりしていやがる。
そうしているうち、幾度となく食んだ唇が離れた。
いや、離れたと言うよりは奴が離したと言った方が正しいか。
レイチェルは俺を突き飛ばし、その頬に涙の筋を浮かばせて言う。
「どうして、どうしてこんなことを……!?」
どうして、か。
「それを聞きたいのは俺の方だ」
俺は自分の顔が苦痛に歪んだのを感じた。

それを聞きたいのは俺の方――この言葉は嘘だ。
聞かなくたって分かっている。
ただ、その事実を認めたくないだけで放った言葉だった。
レイチェルは俺の頬を殴り付ける。先日もらった拳の傷は未だ癒えていない。
頬に鋭い痛みが走った。
「たわけたことを……貴様、私とあの人を侮辱したのだぞ! 理由を聞かせてもらう!」
「俺は」
認めたくない事実。だが、事実だ。
「俺は、お前が欲しいんだ」
「馬鹿な」
ぐいと手の甲で口を拭って、レイチェルは言った。
そして再び馬鹿な、と口の中だけで呟き、踵を返して走って行った。

「……馬鹿な」
俺も星の浮かぶ空を見上げながら、同じ言葉を呟いた。



7. 答え
アインヴァントの弔いの後、俺は例の木陰へと向かった。
と言っても今はもう秋で、木の葉は既に散っており、木陰とは言い難かったが。
かさり、と足元で木の葉が乾いた音を奏でる。
その場に座り込み、俺は大きく息をついた。
「くそったれ……どうしちまったんだ、俺は」
レイチェルの見せた涙が、拭っても拭っても俺の頭の中から消えないのだ。
あいつのことを思い出したくないのに、気付けばあいつのことを考えてしまっている自分がいた。

レイチェルはレイチェルで、この数日間俺のことをずっと避けていた。
ふと目が合うとすぐに逸らす。俺と話そうとしない。
今までの俺ならば、せいせいしていたことだろう。
俺の方から奴を避けていたくらいだからだ。
しかし、今は違う。
レイチェルが俺を避ける度に、俺の心が痛む。
何故奴が俺を避けるのかなんて分かり切っている。
何故俺が奴に避けられて心が痛むかも知っている。
だから、余計に辛い。
「くそったれ」
言った刹那、風が吹き木の葉を舞い上がらせた。小さな呟きは風の音に掻き消される。
「……ガルム」
どきり、と俺はその言葉に身を強張らせた。
俺を呼ぶその声の方を振り向く。
木の葉舞うそこには、サバーカが立っていた。
「此処にいたのか」
サバーカは言い、俺の方へ歩いて来ると傍らで腰を下ろした。
その表情は幾らか疲れたげだ。
年上とは言え、俺よりも二つしか違わないにもかかわらずハウンズ傭兵団を纏める団長のサバーカには、色々と気苦労も多いのだろう。
もっとも、その気苦労を俺がかけているのかもしれないが。


THE UNARMEDの最初へ THE UNARMED 12 THE UNARMED 14 THE UNARMEDの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前