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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-14

「次に出陣するのは、三週間後だったか?」
「そうだな、正確には二十日後だ。早いが、その頃には敵の補給は終わっているだろうな。それに次の戦いは騎士団長殿の弔い合戦だ」
俺が訊くと、サバーカはやや険しい表情で答えた。
「……厳しくなりそうだ」
呟きは、やはり風の音に消える。
暫し沈黙していたサバーカだが、思い出したように顔を上げた。
それから少し躊躇うように口を開く。

「なあ。お前、レイチェル騎士長に何か言ったのか?」
「………」
俺は外方を向いて押し黙る。
「あの日、お前がキャンプを去った後で俺は騎士長に言ったんだ。お前が騎士団長殿を見殺しにしたなんて誤解だと、俺はフォローしてやったんだぞ。そうしたら騎士長は酷く落ち込んだ。お前に酷く言い過ぎた、当たり過ぎたって」
サバーカは、曇った空を見上げながら続けた。
「騎士長はお前を捜しに出て行った。怪我をしているにもかかわらずにな」
俺の心がちくりと痛んだ。
サバーカは不意に俺の方を向くと、至極真剣な顔をして言った。
「お前は騎士長と会ったんだろう? 彼女に何を言ったんだ?」
俺はその問いに答えることは出来なかった。
代わりに、口の端を吊り上げながら言う。
「レイチェルが来たのは……やっぱりお前が仕向けたんだな」
「話をはぐらかすな」
少し憤ったように、しかしあくまで落ち着いた口調でサバーカは言った。

「……泣いて、帰って来たんだぞ」
その言葉が、言葉以上に重く感じられた。
俺は俯き、沈黙する。
サバーカは更に言う。
「なあ、ガルム。どう考えたって、お前があの人に何か言ったのだと思うだろ?」
「それを聞いて、どうする? 慰めるってのか、あいつを?」
僅かだが苛立ちを覚え、俺は思わずそう言葉を返した。
「お前はあいつを慰めてやれるのか?」
するとサバーカは、予想に反して喉の奥で笑い始めた。
訝しげに首を傾げる俺に、サバーカは言った。
「まあ、待て。勘違いするな。慰めてやりたいのはやまやまだが……俺じゃあの人を慰めるなんて無理だ。安心しろ。あの人は簡単に心を揺さぶられる人じゃないしな」
思わず口篭る俺。
サバーカをちらりと見やると、奴は意地の悪い笑みを浮かべていた。
くそったれ、と俺は口の中で呟く。
そんな俺の傍らで、サバーカは木の葉をひとつ手にとり、それを弄びながら口を開いた。
「だが、あの人の心を簡単に揺さぶる奴も中にはいる」
色づいた木の葉を放り、サバーカは俺の顔を見た。

「お前だよ」
「レイチェル騎士長を泣かせたのも、彼女の心が不安定なのも、お前のせいだ」
その言葉に俺は思わず面食らう。
「馬鹿な」
俺は言った。
「俺ひとりの言葉で、そんなに心が揺らぐなんてタマか?」
「事実だ」
間髪入れず、サバーカは言う。俺も再び黙り込む。
「良い意味でも悪い意味でも、お前はレイチェル騎士長の心を揺さぶることが出来る。分かるか、彼女を慰められるのはお前だけなんだ」
当惑――そんなことを言われても、困る。
あいつを慰められるのは俺だけだと?
は、それこそ無理な話だ。
あいつを傷付けたのは、俺なのだから。
「無理だ」
「どうしてそう言うんだ」
「無理だ!」
俺は声を荒げた。


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