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液浸
【SM 官能小説】

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液浸-5

わたしは男を失った。だけど、わたしとあなたの関係はあなたとわたしが初めて交わったとき
から今もまだ続いているわ。カヅエは跪いた彼の顎にやさしく手を添えた。目の前のカヅエの
存在が別れた妻の記憶を薄めていたのは間違いなかった。

あなたが、あの子をどんな風に愛したのか、それとも、あなたはあの子をほんとうに愛するこ
とができたのか、わたしはそのことを考えただけで楽しくなるの。

彼の中には、別れた妻の面影が見え隠れしながらも、なぜかはっきりした像を描かなかった。
それは彼に、妻に対する《何か》が欠けていることを暗に示しているような気がした。それで
も彼は、妻を愛していたことを口にする。カヅエは顔をゆがませ彼をあしらうように笑った。

そうよ、男の思い込みは妻に対しての無関心と同じだわ。それは妻の、夫に対しての不満と嫌
悪になるのよ。おそらくセックスもそうなの、女がオーガスムにいたる時間と過程が、いつま
でも同じものであるなどと馬鹿なことを考えているのが男なのよ。勝手に思い込み、知らない
うちに女を裏切ってしまう、わたしを抱いた男たちがそうだったわ。あの子の実の父親も、そ
して再婚した男も。でも、わたしにとってあなたはこれまでの男と違うわ……。


その夜、妻の夢を見た……妻がカヅエが再婚した男に抱かれる夢を…。妻の像が引き裂かれ、
沈鬱な光彩を放ちながら消えいく幻夢だった。

男と交わる妻の影を彼は拒絶するのではなく、不思議な感覚で受け入れた。妻が髪をふり乱し
て男の腰にまたがり、波に揺れるように烈しく上下に身体を動かしていた。黒髪が汗で額には
りつき、撥ねる乳房に男の指が喰い込み、妻の喘ぎ声が夢の中の暗闇に吸い込まれていった。

そのとき彼は、自分の中に眠り続けていたものが朽ち果てるように射精した。金属の貞操帯の
中のものが、堅く戒められた殻の中で喘ぐように小刻みな収縮を繰り返しながらから白濁液を
垂れ流したとき、彼ははっと目を覚ました。下着に滲み入り、すでに溶けかかった精液。その
樹液は白磁のような艶やかな光沢を放ちながらも凝縮しない液の不完全さを示すように希薄な
匂いがした。


カヅエは苦々しい笑みを浮かべた。あなたは、わたしの知らないところで射精をしているわ、
と言いながら、毒々しいマニキュアを塗った鋭い指爪で彼の貞操帯の鍵を解き、萎えた肉幹を
撫であげ、鼻先でペニスの匂いを舐めるように嗅いだ。

そんなことがゆるされるとでも思っているのかしら、とカヅエが言ったとき、彼はそれが夢精
であることを告げた。

あなたは夢精であるなら、わたし以外の女に向けて精を放てるとでも思っているのかしら、
それともあなたは、その射精がわたしに対するものだと言い切れるのかしら。彼は戸惑いを
隠せなかった。隠そうとしてもそれを抑制するものが溶けるように弛んでいた。

射精の相手はわたしなのかしら。違います。では、だれなの。夢の中にあらわれる妻です。

あなたはあの子に対して今もまだ性的な欲望をいだき、射精をすることができるのかしら。
カヅエは肉幹を淫猥にさすりながら皮肉るように言った。

そうかもしれないし、そうでないかもしれません。そう答えた彼は自らの性的な欲望の意味
を理解することはできなかった。

あなたは、あの子に《そういう場面》を望んでいたのね、わたしの夫に奪いとられたあの子
の姿を。カヅエは高々と笑い、煙草の煙を深く吸い込み、彼のペニスに煙を吹きかけた。




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