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液浸
【SM 官能小説】

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液浸-4

カヅエは、別荘のテラスでロッキングチェアに座ったまま、いつものように高級ワインを口に
する。首輪をされた彼は、全裸で彼女の足元に犬のように跪いた。二本の小さな鍵がカヅエの
胸元で鈍い光を放っている。一本は首輪の鍵……そしてもう一本は、彼の男性器を封じている
奇怪な形をした金属の貞操帯の鍵だった。首輪の鍵は別荘から彼が逃れることを禁じ、そして
貞操帯の鍵は、彼がカヅエと交わるとき以外の射精を禁じていた。

それは、彼がカヅエの所有物であることの明確な証しに違いなかった。

まさかそんな姿を人前に見せることなんてできるはずないわね、とカヅエは薄笑いを浮かべ冷
ややかに言った。彼女はワインで少し酔ったのか薄紅色に頬を染まらせ、彼女の足元に跪いた
彼に饒舌に語った。
過去において自分を抱いた男がどんな言葉でカヅエを口説いたのか、どんな愛撫をしたのか、
どんなペニスをしていたのか、どんな体位を好んだのか、注がれた精液の流れがどれほど心地
よかったか、遠い記憶を楽しむように話を続けた。もちろん、彼がカヅエを抱き、彼女の中に
精液を放ったときのことも。


カヅエは、妻の実の父親である夫を早い時期に亡くしている。妻は幼く、父親の記憶はほとん
どないといつか彼に話をしたことがある。
カヅエは五十歳を過ぎた頃に三歳年下の同僚の外科医の男と再婚している。妻が結婚する以前
のことだった。彼はカヅエからこの男の写真を見せられたことがあった。背が高く、堅固な
体つきをし、端正な顔をした優男だった。カヅエの叔父は遠縁でもあったその男をとても気に
入り、自分が経営する病院を継がせるつもりでカヅエに再婚を勧めた。
カヅエが語るところによると、男はカヅエの叔父の死後、病院を継いだがまもなく病死し、
一時的に彼女が病院を営んだが、その後、病院を知り合いに譲り、ひとり渡欧したということ
だった。

妻はカヅエの再婚相手の男のことを彼に語ったことは一度もなかった。そのことをカヅエに話
したとき、カヅエは笑った。

あの子は、わたしが再婚した男を嫌っていたわ。でも私は知らなかったのよ……あの子がその
男とすでに関係があったことを。

カヅエが囁いた《男と妻の関係》という言葉を彼は口の中で繰り返した。それがからだをゆる
した関係であることはカヅエの眼から感じとれた。

わたしはふたりに欺かれたのよ。きっとあなたはそのことをあの子から聞いたことはないと思
うわ。カヅエがそう言ったとき、彼は別れた妻の姿が白い靄に塗り込められ、遠い彼方に背を
向けるように霞んでいく気がした。

彼は結婚する以前の妻のことについて尋ねたことは一度もなかった。聞く必要もなかったのだ。
それまで彼女がどんな男と、どんなつき合いをしてきたのか。彼の中でとらえどころのない希
薄なものが濃縮されていくというのに、それは妻の姿として凝結した像を結ぶことはなかった。


あの子を、あなたがどんな風に抱いたのか、まだ憶えているのかしら。カヅエがそう言いなが
らチェアで足を組むと、微かに蒼い静脈が浮き上がった薄い脂肪に包まれた腿肌が淫靡に覗い
て見えた。

それとも別れたあの子の肉体のことなど、もうあなたの記憶のどこにも残っていないかもしれ
ないわね。でも、きっとあの子は、あなたと別れた今でもわたしの再婚した男のことを憶えて
いるに違いないわ。あの子が離れられないのは、あなたではなくてわたしの再婚した夫だった
のよ。


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