目的完了-1
その翌日から、梨田はあからさまに何か重いものを背負って仕事しているように見えた。覇気がなく溜息を頻繁につくようになった。浜野は3日程そのまま何も気づかぬふりをして仕事をした。4日目の昼、梨田から昼食に誘われたため、近くのレストランに出向いた。
「どうしたんですか課長?最近元気ないっすね?」
梨田はよくぞ聞いてくれた的な反応ですぐさま浜野の顔を見る。
「実はな…」
全てを知っていて聞くのもどこか楽しかった。普段小煩い梨田の憔悴しきった姿に嬉しくなる。
「俺な、開発室の弓野つかさと不倫してたんだ…。」
浜野はまるで知らなかったかのように驚いてみせる。
「えっ!?本当ですか!?」
梨田は苦笑いしながら頭をかく。
「ああ。品質改良の打ち合わせをしている間に段々と仲良くなってな…。そのうち週に3〜4日会うように…」
「あんな美人な奥様がいて、不倫しますか??普通…」
非難するように溜息をついて言った。
「美人で完璧すぎるんだよ。逆に。何て言うか…例えるなら全てに慣れた風俗嬢よりもスキだらけの素人がいい、みたいな…」
その言葉に浜野は少し怒りを露わにして見せた。
「課長…、奥様を風俗嬢に例えるとか、有り得なくないですか!?そりゃヒドいっすよ。」
「い、いや…モノの例えだよ…」
「いや、いくら例えでも風俗嬢とか言ったらダメっすよ。」
「だよな…、すまん…」
かなり弱っているようだ。立場逆転だ。仕事でガミガミ言われている鬱憤を晴らしているようで気持ちが良かった。
「で、それがバレたんですか?」
「ああ…。この間、いきなりスマホを見せろって迫られてな。今までスマホチェックされた事なんてなかったから油断して、その…つかさとの行為を撮った動画や写真を見られてな…。離婚するって話になっちゃってさぁ…。でも落ち着けば考えも変わるかと思ってたんだが、昨日離婚届を突きつけられてな。もう離婚すると言ってきかなくて…。離婚しなければ裁判してでも別れると…」
「その動画とかって手渡したんですか?」
「ああ。全てデータを取られたよ。」
浜野は額に手を当てて上を向く。
「あー、そりゃダメですね。勝ち目ないじゃないですか。しかも裁判なんてしたら弓野さんとの不倫が公になるし、会社に知れたら制裁必至じゃないですか。」
「そうなんだよ…。だからこのまま離婚せざるを得ないって言うか…。」
「ですよね。それで済むなら会社には最低不倫だけは知られずに済むみますしね…。で、弓野さんと一緒になるつもりですか?」
「ああ。熱りが冷めたら、な。つかさからもいつ離婚するんだと迫られてたし。体の相性もいいし、素人感あるし…」
浜野は、まだ素人感とか言ってんのか、と心の中で軽蔑したのであった。