〜吟遊詩(第四部†砂漠の国ディザルト†)〜-2
二人は賑わう市場を一通り見て歩いた。ユノは何やら楽しそうで、少しでも珍しく見えた物のある店は奥まで入ってしまい なかなか戻ってこない。
エアルはと言うと、こちらは自国の発展の為に参考になりそうなことを細かくメモしている。
【ディザルト】
・砂漠の国。
・風が強い。(むせる)
・砂漠の上で乾燥させたパンは日持ちが良く、美味しそう。
・サボテンジュースはイマイチだがサボテン果実ゼリーは美味しかった。
・日が強いのであまり肌を露出した女性がいない。(残念)
と、こんな具合いに……果たしてこのメモは自国発展に繋がるのか、かなり疑問だ。
とにかく二人が本来の目的もすっかり忘れ、思い思いに行動していると……
「バカヤロー!!こっちだって商売なんだよ!」
急に怒鳴り声と共に『ガシャンッ』という大きな音が聞こえた。
「なに なに?」
顔を見合わせ、慌てて声のした方へ行くユノ達。
見ると、大きな大人の男が二人いた。
男の一人は顔を殴られたらしく、頬を抑えながら地面に倒れている。そして殴った本人はその前に顔を真っ赤にして立ちはだかっていた。
その拍子に割られたような瓶(カメ)の破片が辺りには散乱している。周りには溢れた水。たぶん瓶の中身だったのだろう。
殴った男はまだわめき散らしている。
「クソッ!!なんでこんな事になるんだ!」
ユノ達は訳が分からず、少しの間 傍観していた。不意に後ろから女の人の声がした。
「ほっときな。ここんとこ毎日だろ?巻き込まれない内に早くお行きなさいな」
振り向くと太った女性が腰に手をあて、立っている。顔立ちがハッキリしていて割りと美人だ。一言で言えば、気丈な奥さんといった雰囲気である。
「あの…どうしたんですか?」
エアルがおずおずと尋ねた。
「んっ?アンタたち旅人かい?いいさ、いいさ。アタシんち来な!冷たいミルクでもご馳走してやるよ」
気丈な奥さんは笑いながらそう言うと歩き出した。
戸惑いながらも付いて歩く二人。
ほんの数分歩くと気丈な奥さんはいきなり二人の方を向いて言った。
「そのラクダはそこに手綱を結んでおいて…あー、荷物は全部ラクダから降ろして。盗まれるからさ」
ウィンクつきだ……。
気付けば一つの大きなテントの前についていた。
テントの周りには崩れかけた建物が沢山あり、とても入り組んでいた。昔はここにもそれなりの町があったのかもしれない。
どんなに丈夫な石やブロックも長い間吹き荒れる砂には叶わないのだ。
二人は気丈な奥さんに言われた通りにラクダをテントのすぐ横にある杭に結び付けると、促されるままテントに入っていった。
「アンタ!また仕事サボってゴロゴロしてたね!」
気丈な奥さんがテントの奥に寝そべっている男の人に怒鳴った。
「旦那さんかな?」
「だろうな」
二人は顔を見合わせて笑った。と言うのも、その男は気丈な奥さんとは違い、ほっそりとしていてどこか頼りなさ気だったのだ。尻に敷かれるとはまさにこの事であろうか。
「さっさと稼いできな!」
そう言いながら気丈な奥さんは箒を振り回して旦那さんを追い出した。
「さっ!アンタ達はここに座って!」