接触(一)-1
翌日、居ても立っても居られなくなり、俺は午後の講義をサボって来てしまった。「敵」の新型という奴を素顔で見てみたかったのだ。ポリアンナには用が入ったと伝え、渡部と伊月は放っておいた。どうせあいつらの行くところは決まっている。後から合流すればいい。
勘の促すのに従って、電車に乗ること二時間。そこから歩いて三十分。慶徳女子体育大学。
女子大なんかに入れるか。
これまでの経験では、変身していない改造人間同士はその存在に気が付かない。知り合っていれば遠方からでも連絡が取れる。俺の場合は、相手の情報だけでもその位置が分かるらしい。
ただ、あまり覗き見すると相手に気づかれる危険があるし、向こうも新型だというから、もう知られている可能性もある。俺はかなり恐かった。
「これは試練だ。そして、一種の仕事だ。」
女子大とは言っても、検閲がある訳でなし、堂々と入ることにした。
俺はそのまま校舎を通過して、反対の出口に抜けた。
体格の良い女子達が闊歩している場に、ひ弱な俺はあまりにも不似合いだった。劣等感を大いに刺激された俺は、キャンパスを通り抜けただけで落ち込んだ。
もう負けた。人生に負けた気がする。ここにいる女子学生全員、俺より遥かに体力があるのである。オスとして自分に価値がないなどと、おかしな事まで考えた。
「何してるんですか。」
突如、後ろから声を掛けられた俺は飛び上がって振り向いた。相手も驚いたが、相手を見た瞬間、
「うわ、美人!」
などと俺は叫んでしまい、
「はあ?」
と相手は目を丸くして固まった。
それは、栗色の髪をした、俺より背の低い外国人だった。ポリアンナのようなモデルっぽい可愛らしさはないが、甚だ俺好みの顔だった。
「いや、あ、すみません。女子大を抜ける度胸試しをちょっと。」
「変な人。」
美人は笑顔になった。しかし、俺は直感した。この子が例の新型だ。
どうするか。
俺は思った。
もともと来たのは任務でも何でもない。向こうは、俺が改造人間だなどと知りもしない。しかも俺は組織の人間じゃない。そして、こんな美人と知り合う機会など、もう無いかもしれない。俺の口をついて出たのが
「あの、ちょっとお茶でもどうですか。」
ナンパだった。生まれて初めて女を一人で誘ってしまった。
「いいですよ。これから暇だから。」
一転、人生に勝利した気分だった。
俺たちは喫茶店でなく、飲み屋に入ってしまった。歩いているうちに五時になったので、どうせならと、軽いノリだった。彼女がなんだか嬉しそうに見えたのが、俺を勇敢にした。何より、飲み屋のほうが俺には楽である。
「あたし、あんなこと言われたの初めて。体操ばっかりやってたし、ちょっと差別みたいなのもあったの。だから凄い嬉しかった。男の人と食事なんて初めて。」
彼女は日本で育ったルーマニア人で、大学の器械体操部だということだった。名前はアンカだそうだ。
「一人暮らし?」
「うん。今はね。弘前君、文学部なんでしょ。頭いいんだね。」
「体力がないから、俺はアンカさんが羨ましい。」
「脳みそも筋肉でできてるよ、あたし。」
アンカさんは、ワインを一本ひとりで空けた。頗る上機嫌な様子だ。俺はいつものビールだった。
「体操やってるんじゃ、腹筋とか凄いんだろうね。」
「凄いよ。見たい?」
「見たい、見たい。」
「じゃ、場所変えようか。」
「えっ?」
「触らせてあげるから。」
ククッとアンカさんは笑った。
毛深い大人の女性器を目の前にして、その複雑な形に俺は目を見張った。そしてこのにおい。
アンカさんは真面目な緊張した表情で俺を見つめている。彼女がズボンを脱ぎかけた時、もうパンティーがべっとり濡れていたのを見た俺は、ベッドに腰掛けさせながら、脱がしてしまったのだった。彼女は俺の動きに添うように自分から腰を上げた。
「ああ」
栗色の毛に鼻をうずめた俺は思わず嘆息した。強い腋臭のにおいが籠っている。開いた割れ目は、渡部がいつか注文したアワビに似ていた。鮮やかに赤い肉の盛り上がりの下のほうから白っぽい液がどんどん流れ出てくる。
大きく厚い襞が二枚の牛タンを思わせた。裏はやはり汚れている。女子はみんなこうなのだろうか。
とにかく、一面においが凄かった。輝きとも言えるほどの女の臭気が、男の俺に食いこんでくる。ポリアンナの体臭など、これに比べれば全然大したことが無かった。
肛門も、周りと違う特別なにおいを放っている。見つめられた美人の顔は恥ずかしそうに緊張していた。その肛門から舐め始めたら
「そんなこと、できるの?」
言いながら、アンカは俺にやめさせようとせず、却って尻を開いて寄せた。俺を見下ろす彼女はますます興奮して、腰をよじり、自分で上を脱いでしまった。
目の前に陰核。ラテン語でクリトリス。両方へんな単語だ。核とは種の意味だが、確かに、白っぽい大豆のようにも見える。けれども、舌で皮を捲り上げると、案外長くて大きいし、男のようなくびれがある。ポリアンナとは形が違って、はるかに大きかった。
呑み込むつもりの強さで吸い付いた俺の鼻は、再びにおいの深い森へ隠れた。眩暈がしそうだった。
「あっ!」
アンカは極端に感じる体質らしく
「そこ、だめ! 中に来て!」
聞かずに俺がやめないでいたら、力強い太腿に顔を挟まれた。実に簡単にエクスタシーに至る子だった。
美しい筋肉質の女性が、俺の為すがまま、動けなくなっている。劣等感が裏返されて、楽しくなってきた。ゲームのように、延々と俺はそこばかり吸い続けた。彼女は脚をばたつかせながら、ついにおしっこを噴き出した。