油断-10
「まぁお父様である謙也さんがこの件で圧力かけてきたから、庇いたい人物がいると考えて、もしかしたら息子さんであるあなたがそうなんじゃないかと考えた訳なんだけど、良く分からないわ。あなたからは犯罪者特有の匂いがらしないし、だけど素顔も見えない。」
「知能犯って事ですかね?」
「うん。あなたは非常に頭が良さそう。もし犯罪を犯すなら完璧な計画を練ってから実行に移すタイプ。完璧主義者。そんな印象。」
「確かに。やるなら絶対に捕まらない計画立てますよね、きっと。」
「だよねー。」
もし広徳が犯人なら、ここまでのポーカーフェイスは見た事がない。人間必ず動揺は微妙な行動に現れるものだ。例えば嘘をつくときに鼻を弄る、視線を右上に向ける、指が落ち着かなくなる、など。しかし広徳にはそう言った仕草が全く見受けられないのだ。これは嘘を言っていないか、究極のポーカーフェイスかだ。流石の若菜も判断に苦しんだ。
「今回事件のキーワードでyourTUBEやビッツコインが出てきたとこで、昨日のマギーさんとの話の中で俺がその2つ、特にビッツコインに精通している事を知り、事件との繋がりが出来た、だからわざわざ警視総監様が俺のとこに来たんですよね?」
「お父様もビッツコインを扱ってるって事を踏まえて、ね。yourTUBEは今時子供から大人まで幅広いユーザーがいるからあたたとお父様の関係性には大きな疑いは持てないけどね。」
「ただyourTUBEを使ってビッツコインを普及させようとする動きがある、だからyourTUBEとの関係性も捨てる訳にはいかない、と。」
若菜は正直驚いた。まるで誰かが捜査状況を教えているのではないかと疑った。そんな若菜の動揺を楽しむかのように広徳は言った。
「別に警察の誰かから教えてもらった訳じゃないですよ。俺も耳にはしてるんですよ、yourTUBEを使ってビッツコイン利用者を増やして私腹を肥やそうとしてる奴がいるって。俺もビッツコインは広めてますが、私腹を肥やす為じゃない。俺は本気でビッツコインが今のお金のように扱われる世の中にしたいと思って利用者を増やしてるだけ。カッコつけた言い方をすればみんなと一緒に幸せになりたいんですよ。この街にビッツコインを広めて豊かな街にしたい。この生まれ育った地元を、ね。ただそれだけです。」
「そう。で、ビッツコインを使って私腹を肥やそうとしている人の目星は立ってるの?」
「いや、俺は別に警察じゃないし、俺個人が被害を受けている訳ではないので犯人探しをするつもりはないですからね。卑怯な言い方すれば、俺には関係ない、と。」
「そっか。それもそうね。」
捜査の事で頭がいっぱいで、広徳がビッツコインで私腹を肥やしている犯人を捜すメリットがあるのかどうかを考える事をしなかった。あるかないか、今のところなさそうだ。その瞬間、若菜の肩からフッと力が抜けたのであった。