た-1
「白木っ!」
「綾香、ノースリーブで男と酒飲むなって言っただろうが」
「え・・・」
そう言って、私を身体ごと自分の方へ向けて
ジャケットの胸元をしっかりと閉めた。
「上杉も、綾香の胸元とか肩とか腕とか
じろじろ見てんじゃねーぞ」
白木のそのセリフに、一瞬キョトンとした上杉君が笑いだした。
「なんだよ?」
「あぁ、ごめん。好きな女の子がノースリーブなら肩とかみるでしょ」
「ったく」
白木はぶつぶつ言って私を引き寄せる。
「帰るぞ」
「え・・・」
「話しがある」
今まで何の音沙汰もなかったのに。
いきなり後ろからジャケットをかけられて
話しがあると、腕をつかまれて立たされた。
「ちょっと!」
「良いから」
立ち上がった私の腰を抱いて
ピッタリとくっついた身体と身体は
居心地のいいクーラーが効いた店内の温度とは思えないほどの熱を帯びていた。
「柳下。俺たち帰るから」
「あぁ」
白木は幹事の柳下に、声をかけて
ムアッとする8月の夜空の下に私を連れ出した。
もう8月も終わりだというのに
昼間の暑さが夜になっても冷めない。
静かに白木に手をひかれ
電車の中でも無言で私たちは手をつないでいた。