ユリ-9
「暑いでしょう? 汗かいてますよぉ」
「うん、このライトが暑いし、締め切っているからね」
「窓開けますか?」
「いや、風が入ってくるとその灰色の布が揺れてしまうし、此処は1階だから覗かれそうで気が散るからいいよ。我慢出来ない程じゃないから」
「布が揺れたら駄目なの?」
「うん。全体に焦点が合うように絞りを掛けているからシャッター・スピードはとても遅くしているんだ」
「それってどういうことなんですか?」
「ああ、まあ難しいことはどうでもいいけど、要するに布が揺れると写真が僕の思ったように写ってくれないから」
「そうですか。そんなにいろいろ考えてくれてるんだったら、高田さんも脱いだらどうですかぁ。私だけ下着姿で楽して悪いから」
「いや、カメラマンが下着姿になる訳にはいかないよ」
「どうしてですかぁ、私気にしませんよぉ」
「でも格好が悪いから」
「なんでですかぁ。誰も見て無いからいいじゃないですかぁ」
「いや、ちょっと腹が出ているからね」
「腹が出てたっていいじゃないですかぁ、モデルじゃ無いんだから」
「それはそうなんだけどね」
「おかしいな、下着姿の私が平気なのに、服を着た高田さんが恥ずかしがってる」
「いやまあ、それじゃシャツだけ脱がして貰おうかな」
「いいですよぉ、シャツもズボンも全部脱いで」
「ズボンはいいよ」
「なんだったらパンツまで脱いでもいいですよぉ。私気にしませんから」
「いや、パンツを脱ぐ訳には行かない」
「私オチンチンは見慣れてますから全然大丈夫ですよぉ」
「いや、それはちょっと遠慮するよ。見慣れているのなら比較されたりするといけないからね」
「厭だ、比較なんかしませんよぉ。そんなに汗かいてるんだから脱げばいいですよ」
「いや、まあそれじゃズボンを脱がせて貰おうかな。コールテンのズボンなんか穿いて来ちゃったもんだから暑くてね」
「あらあ、本当にTバック穿いてますね。それいいなあ」
「うん、似合わないだろうけど僕はTバックが好きだから。別に似合わなくても人に見せるもんじゃないからいいだろうと思って」
「似合ってますよぉ、全然。ちょっと後ろ向いて良く見せて下さいよ」
「え? 困ったな僕はモデルじゃないから」
「いいじゃないですかあ、あーいいですねぇ。すんごくいいなあ。下着モデルみたいに見えますよ」
「そうお? 有り難う。そんなに格好良くはないと思うけど、そう言って貰うとやっぱり嬉しいね」
「いいえ、本当に格好いいですよぉ。お腹なんか全然出てないじゃないですか」
「有り難う。それじゃ続きを撮ろうか」
「はい」
次の1時間はかなりスピード・アップして6着撮ることが出来た。しかしこの調子だと2時間で12着、1回2時間として10回で120着だから80回以上も通わないと全部撮れないということになる。しかもその間毎週買い足していると言うのだから、いつになったら終わるのか想像も出来ない。これは思わぬことからユリちゃんと長い付き合いが始まりそうなことになってしまった。
「今日は此処からですよ、私テレホン・カードを挟んでおいたんです」
「なる程、それは考えたね」
2日目は頑張ってみたがやはり1時間で6着しか撮れなかった。今日は始めから涼しい服装で来たので光太郎は服を着たまま撮影した。撮影中は2人とも真剣で会話など殆ど無い。1時間で30分の休憩を挟むというのが丁度良いペースのようで、今日は光太郎は自分の分として缶入りのお茶を持ってきていた。
「あれえ、コーヒーは好きじゃ無かったんですかぁ」
「いやコーヒーを飲みたい時もあるんだけど、口の中が甘くなるから喉が乾いた時はお茶の方がいいんだ」
「そうですかあ、それじゃ今度お茶を用意しておきますね」
「いやいや、これくらい自分で買ってくるから」
「でも私の為に来てくれるんだから、お茶くらい私が買っときますよ」