ユリ-14
「だって厭なら断らなくちゃいけないよ」
「そうなんですね。でも今までだったら断れなくてあのままセックスまで行ってたんじゃないかと思います」
「そうか。厭な時はそういう風に断らないとね。それが自分を認めてやるっていうことなんだよ」
「ええ。私後になって段々気持ちが良くなってきて、ああ、私でも断れるんだぁって叫びたくなっちゃいましたよぉ」
「叫びたくなっちゃったのか。でもそれはいい経験だったね。自分の意志を通すって気持ちのいいもんだって分かっただろう?」
「ええ、あんなに気持ちのいいもんなんですね。知らなかった」
「ユリちゃんは他人の気持ちばかり考えていたから、これからはそういう風に自分の気持ちを大事にしないといけないね」
「ええ本当ですねぇ。高田さんに感謝しなくちゃ」
「え? 別に僕に感謝する必要は無いよ」
「だって高田さんに言われてなかったらあの時断れなかったですもん」
「そうか。それで彼は大人しく引き下がったのかい?」
「私が断ったんで驚いてポカンと口開けてました。その隙に私下着屋に飛び込んで別の出口から出て来ちゃったんです」
「そうか、それは賢明だったね」
「ええもう懸命に逃げましたよぉ。つかまるとセックスするまで放さないと思ったから」
「うんまあ、賢明にいなしてから一生懸命逃げたんだな」
「そうなんです。私今までだったら、ま、いいかってすぐセックスやらせてたと思うんだけど昨日はもう死にものぐるいって言うんですか? そんな感じで走っちゃいました」
「そうか、もし彼がしつこいようなら僕がヤクザに頼んで処理してやってもいいよ」
「えー? 処理するなんてそんな恐ろしい。高田さんてそんな人だったんですかあ?」
「は? 処理するってどういう意味?」
「え? コンクリかなんかに詰めて海に沈めるとか」
「ハハハ、そういう意味だと思ったのか。そんな恐ろしいことは考えていないよ。ただ彼に会って『今俺と付き合ってるんだから彼女のことはもう忘れてくれ』とかなんとか言って貰うだけだよ。ヤクザがそう言えば普通の人はそれで引き下がってくれるさ」
「そうですかぁ、驚いた」
「殺人なんていくらヤクザだってそんなに簡単に引き受けないさ」
「そうですかあ。私ヤクザと付き合ったこと無いから良く知らないんですよぉ」
「うん、ヤクザと付き合ったりしたらいけないよ」
「ええ、私怖いことは嫌いだから」
「そうだね、それがいい。でも彼はこの部屋を知っているんだろう?」
「いいえ知らないんです。別に彼から逃げるつもりでそうした訳じゃないんですけど、彼と別れてから此処へ引っ越したから。更新料なんて要求されたんで、そんなの払うんだったら新しい所に引っ越そうと思ったんです」
「なるほど。電話は?」
「電話は携帯だけだし、水の中に落っことして壊れたから取り替えたんで、今の番号は知らないんですよ」
「それは都合がいいね。まあ何か困ることがあったら僕に言ってくれれば考えるから」
「有り難う。本当に高田さんと知り合って心強いなあ」
「まあ裸の付き合いだから出来るだけのことはさせて貰わないと」
「裸の付き合いって言っても私だけじゃないですかぁ。狡いなあ。今度から高田さんも裸で写真撮って下さいよぉ」
「いやいや、それは困る」
「どうしてですかぁ」
「撮影しながらあそこが立ってる所を見られたりすると困る」
「え? やっぱりオチンチン立ってるんですかぁ?」
「嘘だよ、冗談。あのね、カメラを通して見てるだろう? すると不思議に現実感がなくなってね。だからユリちゃんが下着姿ですぐ其処に立っているというのに別に厭らしい気持ちにならないんだよ。不思議だね」
「そういうもんですかぁ」
「うん、僕も意外なんだけどね。そんなにいい体しているのに」
「なんかプロのカメラマンみたいですね」
「うーん、そうかも知れないね。もう1ヶ月以上毎日のように撮っているから知らない内に気持ちだけプロになっちゃたのかな」
「それじゃ私もプロのモデルにならないといけませんね」
「そうだよ。でもこの頃ユリちゃんはポーズもピタリと決まるし、もうプロみたいなもんじゃないかな」
「なんか楽しいですねぇ。私撮影が始まると何となく気持ちが引き締まって別人になったみたいな感じがするんですよ」
「そうだね、僕も余計なことを考えないで撮影に集中しているな、自然に」
「撮影があるなと思うと毎日此処へ帰ってくるのが楽しいんです」
「そうか。僕も此処へ来るのが知らない内に楽しみになっているみたいな気がするな」