お母さんじゃない-9
(9)
翌日、めぐみが来たのは午後になってからだった。
(もう、来ない……)
2時を回って、張っていた気持ちが沈みかけた時、インターホンが鳴った。
朝から待っていた。逸る想いと体は抑えようがなかった。
(10時前には来るはず……)
9時には親は出かけていると伝えてある。きっと息せき切って汗にまみれてやってくる。そして玄関で抱き合う。キスをする。
(昨日、抱き合ったんだ)
昼を過ぎた頃、何か急な用事ができたのかと思った。連絡もできない用事。家のことだろうか。だったら、仕方がない。……
部屋には飲み物と菓子を用意してある。
(2人で一緒にいたい)
セックスしなくてもいい。来てほしい。祈る気持ちになっていた。
玄関に立っためぐみは裕太を見つめ、
「暑い……」
それだけ言ってハンカチで汗を拭った。めぐみの服装はとてもおしゃれだった。フリルのついたピンクのツーピース。とても大人っぽく見えた。
「上がりなよ」
「うん……」
気落ちしていた気持ちが熱くなってきた。
「ちょっと、練習する」
「練習?」
「ピアノ」
何だか怒ったような言い方だった。
自分の部屋で流れてくるピアノの音を聴きながら裕太は待った。
(すぐに終わる……)
昨日もそうだった。めぐみは部屋に現れて、
(抱き合ったのだ……今日は、もっと……)
曲は続いた。2時半を回った。
(何をしているんだ)
時間がなくなる。居たたまれなくなった。4時頃には母が帰ってくる。焦りが募ってきた。
昨日のことを忘れているはずはない。
(わざとしている……)
次第に疑心が生まれ、怒りの気持ちに変わっていった。
練習は終わらない。裕太は意を決して部屋を出た。
乱暴にドアを開けた。
「ひっ」
声を上げてめぐみが椅子から飛び上がった。
「いつまで練習するの」
「だって、昨日、しなかったから」
「今日は練習の日じゃないよ。お母さんに言ってないだろう」
めぐみは立ちすくんだまま、裕太の視線を外した。
「迷ってないわよ……」
めぐみは目を吊り上げて、
「だけど……」
裕太が近づくと一歩後ずさった。
「裕太君ならいいけど……」
よそ行きの服で着飾ったきれいなめぐみ。昨日の乳房の感触は鮮明に残っている。裕太はもう耐えられなかった。
「めぐみちゃん、好きだ」
迫って、抱きしめ、キスした。
「う、う、」
瞬間、抗っためぐみの手は裕太を抱き、2人はそのまま崩れるように床に倒れていった。
「好きだ」
「うん……」
めぐみの汗の混じったにおいが裕太を酔わせる。服を脱がせる余裕はない。胸を掴む。
「あああ」
その手はすぐさま下半身に差し込まれた。
(指のニオイ!)
パンツの中に入り割れ目に刺さった。
「ああ!いや!」
しかし、言葉ほどの拒絶はなかった。それどころか、
「いいわよ、いいわよ」
返事も何もない。裕太はズボンを脱ぐとスカートをめくりあげパンツを引き下げた。
(おまんこ!)
伸びためぐみの脚。どうしていいかわからない。経験がないのだ。脚を開かせることはわかっても挿入の体勢がとっさにわからない。脚の間に割り込んで重なった。
「ああ、裕太君……」
めぐみも受け入れの形を知らない。
「うう!」
突き立て、突き、差し込まれたのは、弾みのようなタイミングであった。
「あ!」
「うう!」
たしかな挿入感!物音と悲鳴のような声を聞いたのはその時だった。
「きゃ!」
頭をもたげためぐみの声。裕太も振り向き、体が傾いてペニスが抜けた。
そこには口を開けた母がいた。
その後、どうなったのか、よく覚えていない。めぐみは飛び起きて走って出て行ったが、裕太はどんな行動をとったのか。我に返った時には自分の部屋にいた。ズボンも穿いていた。
茫然としていた。気持ちの収拾がつかない。考えが巡らなかった。
蝉の声が聴こえていた。
(ツクツクボウシ……)
お盆の頃に鳴き始める。夏休みも後半に入ったと子供の頃に思ったものだった。日はまだあるが、夕暮れが近いのは雰囲気でわかる。
(どうしよう……)
とにかく、大変なことになった。大変なことをした。……動揺、というより、暗澹たる想いで裕太はベッドに蹲っていた。
ガレージの扉が開く音がして、間もなく階下から彼を呼ぶ声が聞こえた。5時をすぎていたがまだ明るい。
母が玄関で待っていた。
「いくわよ」
車のエンジンがかかっている。母が運転するのを見たことがなかった。
「車で行くの?」
「そう。免許もってるのよ。たまには乗ってみようかと思って」
「大丈夫?」
「任せて。近くだし。ステーキ食べにいこ」
裕太は笑って頷いたが、ぎこちない笑いだった。