京子-2
「それじゃ何で貰わなかったの?」
「え?」
「500円しか持ってないんでしょ?」
「あ、特に使う予定が無かったから」
「特に使う予定なんか無くたっていつも財布に少なくとも2000円くらいは入れときなさい。2000円より少なくなったら貰って又2000円にしておくの。そうすれば女の子が泣いている時500円貸してやるなんて恥ずかしいこと言わないで済むでしょう? 今時500円じゃタクシーにも乗れないんだよ」
「俺タクシーってあんまり乗らないから」
「タクシーは例えばの話。何するにしても500円ばかりじゃどうしようも無いでしょ?」
「うん」
「陽介のうち貧乏なの?」
「さあ、聞いたことない」
「聞いておきなさい、それくらい」
「うん」
「あんたと一緒にいると気楽でいいわ。何で泣いてたのかしつこく聞こうとしないし。これが他の人なら大変だった」
「何で泣いてたの?」
「今頃思い出して聞かなくていいの。それよりその袖どうしたの?」
「これ? 破けた」
「破けたのは見れば分かるの。だから聞いてんでしょ? 何で破けたのか聞いてるの」
「加藤が引っ張ったんだ」
「喧嘩したの?」
「違う。相撲取ってた」
「あんた達高校生にもなって子供なのね、本当に」
「何で? 相撲取ると子供なのか?」
「少しは色気ってもんが無いの?」
「色気? 俺男だもん」
「誰も陽介が女だなんて思って無いよ。もう少し色気づいてもいいんじゃないのかって言ってんの。学校で1番の美人の木村京子さんと2人でラーメン食べてんだから何か言うこと無いの?」
「え?」
「木村京子にラーメン奢った男は沢山いるけど私が男に奢ったことなんて無いのよ」
「ああ、それは後で言おうと思ってたから」
「じゃ今言って」
「うん。有り難う」
「何が?」
「だからラーメン。今度の時は俺が奢るから」
「分かって無いのね。まあいいけど」
「何が?」
「今度の日曜日にうちにいらっしゃい」
「いらっしゃいって?」
「いらっしゃいというのは来なさいという意味」
「そんなの分かってるけど」
「それじゃ何が分からないの?」
「何で行くの?」
「私の誕生日だから」
「どうして?」
「私が生まれた日だから私の誕生日なの。ついでに言うと私が生まれたのは今度の日曜じゃ無くて17年前の今度の日曜と同じ日に生まれたのよ」
「そんなこと当たり前じゃないか。今度の日曜に生まれたらまだ生まれて無いってことになっちゃう」
「なるほど。その程度までは説明しなくても分かるんだ」
「当たり前だよ」
「それじゃ分かったわね」
「何が?」
「何がって?」
「木村の誕生日だから何で俺が行くの?」
「陽介はまあ。私の顔見てごらん」
「何?」
「何か感じない?」
「別に何処も汚れていないと思うけど」
「馬鹿。この美人を見て何とも感じないんだから陽介はまだ子供なのね」
「木村って美人なのか?」
「じゃ陽介は誰が美人だと思うの?」
「うーん。歌田ヒカルかな」
「えー? あれは歌はいいかも知れないけど美人なんて言う人いないよ」
「そうかな」
「第一それは芸能人じゃないの。このクラスで、別に他のクラスでもいいけど、この学校で誰が美人だと思うのかって聞いてるの」