1 裕子-6
「何してるの?」
「腕立て伏せ」
「それは分かるけど何で?」
「オートバイ乗るには筋力が必要なの」
「へえ。姉さん草鞋持ってる?」
「ワラジ? ワラジって草鞋?」
「草鞋って草鞋に決まってるだろ」
「何すんの?」
「履くの」
「何で?」
「文化祭で使うんだ」
「ああ、なんかそんなこと言ってたね。大和田って言ったっけ? 結構可愛いじゃない」
「何で知ってんの?」
「だってあんたの机の引き出しの写真、その子なんでしょ?」
「何で僕の机の引き出し開けたんだよ」
「母さんに頼まれたのよ」
「開けろって?」
「うん」
「何で?」
「飛び出しナイフ持ってないか調べてくれって」
「飛び出しナイフ?」
「そういうので刺したりする事件があったでしょ?」
「ああ、そんなら聞けばいいのに」
「持ってたら聞いても持ってるとは言わないでしょ」
「そうか」
「それで大和田さんがお姫様になるの?」
「何で知ってんの?」
「やっぱりそうか。知らないけど聞いただけだよ」
「それで草鞋持ってんの?」
「そんな物持ってる訳無いよ」
「何処行けば買える?」
「さあ、此処らじゃ売ってないな」
「じゃ何処まで行けば売ってる?」
「山に行けば土産物屋で売ってると思うよ」
「山って?」
「山っていうのは、こういう風に地面が高くなってる所」
「そんなの知ってるよ。何処の山に行けばいいか聞いてるんだ」
「今度の休みに高尾山にツーリングに行って来るから買ってきてやるよ」
「有り難う」
「いくつ?」
「それは聞かなかった。明日大和田に聞いてみる」
「ああいう顔は特徴が無いからぼんやりして見えるけど、メークするとびっくりする程美人になるよ」
「大和田のこと?」
「うん」
「へーえ」
「草鞋っていくつ要る?」
「1つでいいけどあったら念のため2つ用意して貰おうかな」
「分かった」
「あったの?」
「山に行けば売ってるらしい」
「山まで行って買ってくるの?」
「姉さんが山に行くから頼んだ」
「山に行く? 登山が趣味なの?」
「違う、ツーリング」
「ツーリングって何?」
「オートバイ」
「ああ。小山君のお姉さんオートバイに乗るの?」
「うん」
「凄いわね」
「男みたいだから」
「小山の姉さん凄い美人なんだぜ」
「粕谷君見たことあるの?」
「あるさ何度も。なあ?」
「うん。でも別に美人じゃ無い」
「こいつちょっとおかしいんだ。田宮が美人じゃなくて大和田が美人だって言うんだから」
「あら、有り難う」
「姉さんも言ってた」
「何を?」
「大和田のこと美人だって」
「本当かよ?」
「うん、化粧するとびっくりする程美人になるだろうって」
「へーえ、この顔がねえ」
「粕谷君はあっちに行きなさい」
「へいへい、お邪魔様」
「美人でオートバイ乗り回してるの?」
「だから美人じゃない。この間良く見てみた」
「良く見てみたってお姉さんのこと?」
「うん」
「そしたら美人じゃ無かったの?」
「うん」
「小山君可愛いね」
「何で?」
「何でも」
その日の放課後は良介と大和田裕子の2人で生地専門店に行き、打ち掛けにする赤い布を探した。