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良助
【青春 恋愛小説】

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1 裕子-7

 「小山君どれがいい?」
 「沢山あり過ぎて分からない」
 「打ち掛けだから赤い布がいいと思うんだけど」
 「うん」
 「でも赤だけだと寂しいから何か小花模様みたいな色の散ってるものがいいと思うんだけど」
 「うん」
 「小山君は何色がいいと思う?」
 「だから赤だろ」
 「ううん、赤に何色の模様がいいかしら?」
 「うん」
 「うんって?」
 「うん分からない」
 「困ったわね。そしたら色に拘らなくていいからこれがいいなと思う物選んでみて。私は私で選んでみるから」
 「うん」

 良介は天井近くから沢山垂れている様々な色の布地に圧倒されている。安い裏地用の生地だから模様入りの物は無い。裕子は「無いわねえ」と言いながら何処かに行ってしまい、いつの間にか良介だけが取り残されて相変わらず天井から垂れている沢山の布を見上げていた。流石に見栄え良く展示してあるから値段は安いのにどの生地もとても高そうに見える。赤い布の隣に緑色の布があってそれが目立っていたからそれにしようかと思ったが、裕子が打ち掛けだからやっぱり赤だと言っていたので緑はまずいのだろうと思う。それで赤かそれに近い色を探していたら1番隅に鮮やかなピンク色の布が隠れていた。隠れているのを発見するとなぜだかそれがとても良く見えたりするもので、それがいいと心の中で決め、裕子を探した。裕子は2階に通じている階段を降りてきて自分を探しているらしい良介に気付くと
 「小山君、こっちこっち」
 と言った。その声でお客の視線が一斉に良介に集まり、良介は恥ずかしかった。裕子の方を見ないで知らんぷりしながら階段を上がって行くと裕子が途中まで降りて来て
 「何処見ながら歩いているの?」
 と言って良介の腕を取った。
 「ちょっと放せよ」
 「何を?」
 「腕を」
 「ああ、こっちに来て」
 「うん、行くから引っ張るな」
 「どうしたの? 具合でも悪くなったの?」
 「具合って?」
 「体の具合」
 「別に悪く無い」
 「それじゃこっちに来て。私いい物見つけたの」
 「僕も見つけた」
 「小山君が?」
 「うん」
 「それじゃそれを先に見ようか?」
 「いいよ。大和田さんが見つけた物を先に見よう」
 「そう? それじゃこっちなんだけど」
 「2階にもあるのか」
 「あのね、私カーテンの中から探してみたの」
 「カーテン被るの?」
 「カーテンだって被れば打ち掛けに見えるでしょう?」
 「レースの奴?」
 「レースのでもいいけどちょっとこれ見て。ね、素敵でしょう?」
 「うん」
 それは赤い地に緑色の小さいクローバーの模様が点々と散っていた。なるほどこれなら豪華に見えそうである。良介は自分が選んだピンクの生地が急にみすぼらしく下品な物に思えてきた。


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