1 裕子-24
「ほら依存者が来た」
「田宮、何処いたんだよ。探したんだぞ」
「うん、知らなかった」
「さっきから此処にいるんだよ」
「さっき会った時『順子探してる』って言えばすぐ見つかったのに」
「なんで?」
「だって美術室で会ったばかりだったんだもの」
「何で言わなかった?」
「だって順子探してるなんて知らなかったんだもん」
「見れば分かるだろ」
「何で?」
「何でも」
「田宮さんを知りませんかって書いたプラカードかなんか持ってたっけ?」
「良介、金持ってんの?」
「持ってる」
「いくら?」
「さあ・・・? 500円ある」
「それじゃこれ上げるから」
「どうして?」
「カラオケ行くんでしょ?」
「あ、そうか」
「わあー、いいお姉さん」
「ネ、みんなで写真撮ろう」
「そうだ、俺お姉さんの隣に座る」
「粕谷君がシャッター押すんだよ」
「それじゃ俺写んないじゃないか」
「それだからいいの」
「酷いこと言うなあ」
「僕が押してやる」
「小山君は駄目よ。折角お姉さんがいるのに」
「姉さんとはいつも会ってる」
「それはそうだけど」
「そこにいる子に私が頼んでみるわ」
「やっぱり裕子は良く気が付くね」
「うん、女は顔じゃないんだな」
「粕谷君が言っても説得力無いよ」
「あ、お前の顔見るとやっぱり女は顔だって思う」
「馬鹿にして」
「芳恵を虐めたら後でデートはしないよ」
「いやいや可愛いからからかってみたんです」
「誰かの真似してるな」
「ねえ、小山君のお姉さんって凄いね」
「何が?」
「モデルみたい」
「モデルだから」
「え? モデルしてんの?」
「学生だけどアルバイトでモデルしてる」
「何のモデル?」
「バイクの雑誌のモデル」
「へえー、凄いのね」
「凄いのか?」
「今にレース・クイーンになるかも知れないね」
「もうなってる」
「えーっ、何で言わないの?」
「今言ったじゃないか」
「何で今まで言わなかったの?」
「聞かなかったから」
「他にお姉さんがやってることは何かあるの?」
「学生」
「違う、テレビとか雑誌に出てるとか」
「だからバイクの雑誌」
「他には?」
「知らない」
「今度聞いてみて」
「なんで?」
「何でも。知りたいから」
「自分で聞けばいい」
「小山君のお姉さんなんでしょう?」
「僕の妹じゃない」
「何? 姉さんだから妹じゃないのは分かっているよ」
「妹のことなら何でも聞いてやる」
「ああ、そういう意味か。姉さんとは話しづらいの?」
「そんなことも無い」
「あんまり姉さんと話したくないの?」
「うんちょっと」
「ね? 私、小山君と話す要領が分かって来た」
「良介、通訳が2人になったよ。良かったね」
「お前に良介なんて呼ばれたく無いって言っただろ」