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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-42


32

 21時半を少し過ぎた街並みは、人は多かったが落ち着いていた。
 僕は顔を俯けて、背中に両手を組みながら、その手に持った白いエナメルのバッグをぶらぶらさせて歩いていた。そのすぐ後ろに郁夫が続く。

「せっかく誘って貰ったのにね」

「僕としては映画を見るよりよっぽど堪能したけど。それより、寝不足だったのかな?」

 まさかその当人との淫らな妄想で眠れなかったとはとても言えたものじゃない。

「ん〜、ちょっちね。楽しみが先にあると不安になる」それは事実だけど。

「とりあえず、落ち着こうよ。君の希望でもある事だし。叔父に教えて貰ったいいバーを知っているんだ」

「なんか、『ちょっと良い店』のコレクションがいろいろありますなあ」

 僕は機嫌を直した風を装って、顔を上げて郁夫に微笑み、ちょっと首を傾げる。あはは、この仕草が癖になってしまったか。「なりきり」も重傷だ。
 郁夫に導かれて路地をいくつか曲がり、無機質なコンクリートのビルの下に着く。狭い階段を上って行くと、見事に風変わりなドアが待っていた。打ちっ放しのコンクリートに鋲で留められた物々しい金具、黒檀のような木製の分厚いドアには金色の鯨とおぼしき真鍮が埋め込まれている。

 郁夫はまた煙草をくわえて「サンジ」に変身すると、ドアを開けて僕を誘った。
 店内は薄暗かったが、帆船を模した内装は見応えがあった。錆び付いた巨大な銛や太いロープの渦、オールや滑車などなど。どうも捕鯨をテーマにしているようだ。流木で作られたと思われるカウンターが長く伸びていて、どうもそれだけのお店らしい。
 出口に近いところにいた三人組の男達は詩音を見ると、例外のないあの表情を浮かべた。「慣れ」とは怖ろしいものだと僕は思う。僕は彼らを空気のように感じながら、それでも軽い「挨拶」のような流し目を送る。ため息のコーラス。
 カウンターの最も奥まった所の椅子を郁夫は引いて、片手で僕をエスコートした。ま、合格かな。続いて僕を隠すようにして隣に郁夫が腰を下ろした。
 黒髭の中から目と鼻だけが付きだしたような、不機嫌な大男が近寄ってきた。無言だ。とても良い兆候ではある。


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