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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-41


31

「くおらあ!郁夫ぉ!」大音声がホールにこだまして僕はびくっと身を起こした。

 みると、熊のような身体を揺らして通路をこっちに向かってくる巨漢。首からごついヘッドホンを下げている。

「プロダクションの女にゃあ手を出すなってあれほど言っただろうに」

 そのまま郁夫の肩をどついた。40インチぐらいあるんじゃないかと思うリーバイスの膝が今度は郁夫の胸に突き刺さる。

「しかもロリとはな。貴様ら伊集院は変態ばかりか!」

「ち…違うってばおじさん!この子は普通の高校三年生だってば」郁夫が噎せながら声を途切らせながらうめく。
「高校三年生? 監督生活30年の俺の目がごまかされると思うな。第一そんなピアスを着けた女がそうそう居るものか」

「これは、なんとかっていう偽物なんだって」

 僕は思わず逆上して立ち上がった。ライトの光が反射してピアスが爆発したように輝く。

「やめろよじじい!僕はテレビにもネットにも出たことないし、黎明学園に通う普通の高校生だってば!嘘だと思うなら学校の寮に電話してよ。じゃなきゃ、警察を呼ぶよ!」僕はiPhoneを握りしめて立ち上がり、男を睨み付けた。

 ふと、大男は静かになり、拳を下ろした。

「ふむ……黎明学園か。となると、ありえるな」

 大男は改めて僕を上から下まで睨め付けるように見つめる。

「プロダクションの安女優がそんな上等な服を持っているわけないしな。第一プロダクションでこれだけの素材があったら俺が一番に目を着ける。あのブルジョワ学校なら、確かにこんなのが居ても不思議じゃない」

 大男は今度は打って変わって柔らかい微笑みを浮かべて僕を見た。

「それに、業界の女がそんな男みたいな物言いもしないしな。まして俺に向かって反抗なんかする道理がない」

 詩音は肩に触れようとした大男の毛むくじゃらの手を詩音は鋭く叩き落とした。

「お〜、怖ええ。さすがに黎明学園だ。プライドも半端じゃねえな。」

 グローブのような手を振りながら、大男は引き下がる。

「でも、お嬢ちゃんよ、あんたなら間違いなく俺が大スターにしてやれるぜ。たちまちアイドルだ。日本中の男達の目の保養のために骨を折っちゃくれねえかなあ」

「アイドルなんてのは檻の中のパンダだよ。誰がそんなものになりたがるか、馬鹿!」

 大男は肩を落として後を向いてゆっくりと去って行く。

「まぁったく、その通りだよ。まったく」

 僕はようやく腰を下ろし、ため息をつく。

「ごめんね、ああいう叔父なんだ。それにしても…」郁夫が嬉しそうに僕を見た。

「怒った君は女神みたいに綺麗になるんだね。平成のジャンヌダルクってとこかな? 目が潰れるかと思った」
 なるほど、それには気が付かなかった。

 会場には徐々に人が集まり始めた。
 だらしない腹の出たサングラスの業界人、いかにもやり手のパンツスーツで決めた女性編集者、何日も徹夜したようなくまを浮かべたプログラマー。まさに有象無象の大群が様々なテンションで蠢いている。
 やがてステージが暗転して司会者にスポットライトが当たり、司会者は声優を順次紹介し、声優はそれぞれ無難なコメントを述べて、作品に参加できた事への感謝を伝えた。最後に原作者兼監督が絶大な拍手で迎えられ、簡単な挨拶をして退場した。
 少しの間の後、ようやくカーテンが開き映画の上映が開始された。サラウンドの圧倒的な地響きが館内の床を響かせ、おなじみのキャラクターが画面一杯に広がった。にも拘わらず、僕は全然映画に集中できない。ガチに心臓がやばい。僕は落ち着かない膝を体重をかけた両手で押さえつける。

「どうしたの? 気分悪い?」僕は首を振って無言の否定をする。

 もうすでにただの色彩と音と化してしまった映画から僕は意識を切り離し、かなりドキドキしながらゆっくりと郁夫にもたれかかった。ちょっとワイルドなコロンが香る。なんて逞しい身体なんだろう。包み込むように暖かくて。
 しばらくそうしていると自然と頬が緩み、胸に顔を擦り寄せてしまう。

 朝顔が蔓を伸ばして揺れている。僕は誰かの膝の上に丸くなり微睡んでいた。暖かい毛布が僕の喉をくすぐり、時折柔らかな掌が僕の額を撫でつける。安心と充足。瞳を軒下から移すと、水色の空が広がっていた。それはゆっくりと滲んで。僕は深く水に沈むように眠りに落ちた。あの柔らかな午後。

 眼を開いたとき、それはコンクリートと鉄柱の天井だった。耳の中にざわめきが聞こえる。眩しくない程度の館内照明が僕の瞳を灼いた。
 映画は、とっくに終わったみたいだ。
 僕は慌てて身体を起こす。足音や喋り声、機材の音がぼんやりと響いている。
 隣に郁夫が居た。照れくさそうに笑って僕を見ている。明らかに、明らかにこれはまずい。客席はベンチシートだったのだ。つまり……

「僕、寝ちゃったのかな」

「それはそれはすやすやと幸せそうにお休みになってらっしゃいましたよ、王女様」

 郁夫は目尻を下げて笑みを浮かべる。

「ど、どこで?」

「私めの膝の上で、何回か寝返りをうたれましたから、ご満足のご様子でした」

 うぎゃあああああああああああ!


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