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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-43


「僕はロン・ヴァラデロをストレートとチェイサーで。君は…この店にはカクテルが」

「あるよ。ソルティ・ドッグ。無いはずがない。だよね」

 髭のマスターは不機嫌そうな顔のまま頷いた。

「知らなかった…ここはラム酒とバーボンかシングルモルトしかないと思った」

「ソルティ・ドッグの意味を知ってる?」

「いいや。直訳すると『塩の犬』になるけど」

「Solty Dogの最後の「DOG」はスラングでね、逆に読むんだよつまり「GOD」。こういうお店が「海の神様」に敬意を払わない訳はない」

 郁夫はただただ目を丸くして僕の桜色の口唇を見つめる。可哀想だから、思いっきり笑顔を浮かべてやった。それから黒板を横目で見る。その日のお奨めなのだろう、いくつかのメニューがチョークで乱暴に書かれていた。

「食べ物はアイスバインのポトフをお願いね。一緒に食べる?」

「い、いや。じゃあ僕も同じ物を」

 髭のマスターは黙ってカウンターの奥へ去って行った。

 郁夫は咥えた煙草に火を着けて、頭をがりがり掻いた。

「君はいったい何物なんだ? 僕は怖くなってきたよ」

「頭でっかちなだけだよ。ところで、カッコだけかと思ってたら、煙草を吸うんだ」

「この店に来るとそういった悪徳にまみれたくなるのが男ってもんさ」

「……キスの味が苦くなっちゃうじゃない」

 郁夫は眉をつり上げて、慌てて煙草をもみ消した。
 僕は眼を細めて郁夫に流し目をくれ、肩肘をつく。

「そんなつもりだったの?」

「い…いやいやいや、まったく、もう!君がこんな小悪魔だとは思わなかった」

 僕はまた優しく笑ってあげた。
 運ばれてきたソルティ・ドッグは見たこともないほど見事にグラスの上に塩も結晶が煌めいていて、僕はびっくりした。郁夫のラム酒とチェイサーもカウンターに乗る。

「今、かかっている曲を知っている?」僕は郁夫に問うと、郁夫は首を振り、髭のマスターが立ち止まる。

「これはね、『ナンタケット・スレイライド』。そうですよね」

 髭のマスターはゆっくりと、しかししっかりと頷いた。気のせいか、埋もれたような瞳が光っている。

「何? それ。そういえばいつでもかかっているな、とは思っていたけど。そもそもこの店の名前は『ナンタケット』さ。知っている人なんてほとんど居ないはずなのに」

「フェリックス・パパラルディって人が作った曲。」

 僕はソルティ・ドッグを口にした。甘酸っぱく、ちょっとビターな絶品だ。僕は両手で顎を支えて、またしても酒に負けないぐらいの絶品の微笑みを浮かべた。

「ナンタケット。アメリカの東海岸にある小さな島。でもね、かつては屈指の港だった。それはね、アメリカの捕鯨の歴史の原点だよ」

「え? アメリカって、捕鯨大反対の国じゃないの?グリーンピースとか」

「今はね。でも、かつてアメリカは世界最大の捕鯨大国だった。今流れているこの曲も、命をかけて鯨と戦った男達の歌だよ」

 詩音は伸びやかな美しい腕と指で、店の天井近くにあるいびつな白い骨に描かれた帆船の細密画を指さした。
「ホエール・アートだよ。鯨の骨に刻んで色をつけたもの。アメリカという国は自分の誇りさえも捨ててしまった」

 横を向いている寡黙なマスターに向かって、詩音は声を落として言った。

「でも。残念。これは牛骨。捕鯨が迫害された後の作品」

 それから僕と郁夫は、アイスバインのポトフの旨さにびっくりしながら、あっという間に食べてしまった。食べ終わった僕の前に、コトリと小さなグラスが置かれた。僕は迷うことなくそれを舐めてみる。ちょっと考えて僕は言った。

「サンティアゴ・デ・クーバ」

 僕はそう言って、力を込めてキリッと髭のマスターの眼を見つめた。
 髭のマスターはゆっくりと微笑むと、カウンターの下から何か取り出し、僕の目の前に置いた。それは、金色の鯨のシルエットを持つ小さなプレートだった。


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