ケイの誕生-5
「川上さんゴメン!俺、ノーマルだから勘弁してーっ!!」
その様子を見ていた奈津子が笑いながら川上に近寄り背中をバンバン叩いた。
「川上、グッジョブ!いやー、本当に楽しかったわ」
「土方さん。背中痛いですよ。それにしても土方さん鬼ですね……圭介くん女装のまま外に出ちまいましたよ」
「朝、私を手こずらせた罰よ。所詮、圭介は圭介であり私には勝てないって事を思い知らせておかないとね。ま、ほっといてもその内に帰ってくるわよ」
「ひでぇなぁ。それに圭介くん、俺のこと絶対そっち方面の人だと思っただろうなー」
「圭介が川上の事をそっち方面の人だと勘違いして避けたとしても私がいるじゃない。それじゃ不満?」
奈津子は川上の顎を人差し指で軽く上げると悪戯っぽい笑顔を見せると川上も満更ではないという顔になり奈津子の腰に手を回した。
「とんでもない。とても光栄ですよお姫様。その言葉をマジに受け取っていいんですかね?」
「それは、これからの君次第だよ青年」
奈津子は腰にある川上の手を抓ると川上から踊るようにターンをしながら離れつつ、艶っぽい笑みを見せた。
「いててっ……一筋縄ではいかないって事ですか…」
「あ・た・り・ま・え・よ。私を捕まえたかったら全力できなさいっ!いつも摘み食いしてる娘達みたいに簡単にいくとは思わないことね」
そう言いながら奈津子は後片付けをしている友美達のところへ戻って行った。
「……ヤべーなぁ、マジになりそう……」
奈津子がその場から去った後、川上は一人呟くと頭を掻きながら苦笑すると機材の片付けに向かった。
川上のところから上機嫌で戻ってきた奈津子は友美に声をかけた。
「友美。まだしばらくここにいる?」
「はい。片付けとかありますからまだいますよ。なにかご用ですか先輩?」
「いやね、圭介が衣装のまんま外に出ちゃったから、圭介が帰ってくるまで友美ちゃんに待っててもらえないかなぁーってね…」
奈津子の悪戯でスタジオを飛び出してしまった圭介の事を思い出し、奈津子は少しバツが悪そうに友美を見ながら拝みこむ。
友美はそんな奈津子を見ながら少し考え込んだ。
「……んーっと……いいですよ。まだやらなきゃいけない事もありますから、圭介くんが帰ってくるまで待ってますよ」
「ありがとうっ!やっぱり友美ちゃんはいい娘だわっ!」
「きゃっ!!先輩、急に抱きつかないで下さいよぉ」
「その代わりっていっちゃうとなんだけど、圭介が帰ってきたら好きにしていいからね」
奈津子は友美を解放すると嬉しそうにウインクをしてスタジオを出て行った。
「……好きにしていいかぁ……」
友美はそう呟くと何かを決心したかのように自らを奮い立たせる様な表情をしていた。
その頃、川上に迫られ勢いでスタジオを出てきてしまった圭介はスタジオから少し離れた富士見町の繁華街にいた。
ヤッベー……こんな格好のまま外に出ちまった……かなり視線感じるし、もしかして女装バレてる!?
圭介本人の思惑とは裏腹に男達の視線はいい女に向ける視線そのものであることに今の圭介は気付くはずもなかった。それと同時に女性からの羨望の視線もかなりあった。
「はぁぁっ……どうすっかなぁー」
圭介は人に聞こえないような小声で愚痴りながら、トボトボと富士見町駅前に足を向けていた。
駅前に出て、少し歩いたところで券売機の端の方から女の子の声が聞こえてくる。
「いやですっ!」
明らかに女の子の拒絶の声だった。
「ちょっと付き合ってくれてもいーじゃんよ」
ガラの悪い如何にもって感じの男が見るからに品の良い感じの女の子に付きまとい女の子の肩に腕を回していた。