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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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ケイの誕生-6

「やめて下さい!放してっ!!」
「テメー、あんまり調子にのってんじゃねーよ!人が優しくしてりゃいい気になりやがって!」
女の子の抵抗に男の表情があからさまに不機嫌になり、男が手を上げようとした瞬間に圭介は自分がケイの姿である事を忘れ走り出していた。
「…………っっ!!」
男の態度から自分の置かれた状況を察した女の子は思わず目を閉じて身を竦めたのだったが、しばらくしても何も変化のない状況を不思議に思い閉じていた目を薄っすらと開いた。
そして怯える女の子の視界に入ったのは、自分に乱暴をしようとした男の腕を後ろ手に捻り上げているキリッとした顔立ちの背の高い美少女の姿だった。
「いくらモテないからって力ずくで女の子をどうにかしようってのは見苦しいよ」
ケイの凛とした声が怯えていた女の子の耳にも届くと同時に、ケイは男の腕を更に捻り上げたらしく男はみっともないくらいの大声を上げながらケイから逃れようとした。
そんな男の様子を見たケイは鬱陶しそうに突き放し男を睨みつけると男は女の子に腕を捻り上げられた挙句、窘められた事に羞恥を感じたのか捨て台詞を吐いて逃げていったにだった。
あーあ…どーしてこんな時に限ってこんなハプニングに出くわすんだろ俺って……。
そんな事を思いながら頭を掻いていると目の前の怯えきった女の子の事を思い出し声をかけた。
「君、大丈夫?」
「……はい……だ、大丈夫で…す……」
あまりにも怯えきって今にも泣きそうな女の子を気の毒に思った圭介は女の子を優しく抱きしめてあげた。
「もう大丈夫だよ。君に怖い思いをさせる奴はいなくなったから安心して…」
「ありがとう…ございます……もし、貴女が助けてくれなかったら……ぐすっ…ううっ………」
「もう助かったんだからもしって言葉は無しだよ」
「でも、怖かった……本当に怖かった…です……ううっ……うああっ………」
圭介は自分の胸で泣きじゃくる女の子を落ち着くまで背中を撫でながら慰めた。
しばらくして、女の子も落ち着いてきたらしく圭介の顔をマジマジと見つめてきた。
「ん…どうしたの?」
「こうやってお顔を拝見させていただきますとお姉様ってとても綺麗な方なんですね……あの男の人をやっつけた方にはとても見えないです」
お、お姉様!?ちょっと待てっ!
いきなりお姉様と呼ばれ戸惑いを隠せない圭介。そんな圭介の様子を見て女の子は控えめにクスッと笑いながら話を続ける。
「だって、私、お姉様のお名前をまだお伺いしていませんでしたから……あ、自己紹介が遅れてしまいまして申し訳ありません。私、朱鷺塚香澄といいます」
「わ、私の名前はケイ。相沢ケイって名前だからよろしくね香澄ちゃん」
圭介は撮影の時に友美から聞かされていた自分の芸名をとっさに語り、はにかんだような笑顔を香澄に見せた。
「はい。よろしくお願いします。ケイお姉様」
「だ、だからお姉様は勘弁して」
慌てるケイの様子を見て香澄はいたずらっ子のように微笑んだ。
「あら、どうしてですか?お姉様はとても素敵だし、私の事を身を挺して護って下さいました」
「あの状況なら普通誰でも助けるでしょ」
「いいえ。普通、女性でしたら怖くて男性に立ち向かうなんてことは出来ませんよ」
香澄は瞳を輝かせながらケイの顔を見つめている。
真っ直ぐな瞳で見つめてくる香澄に対してさすがに気恥ずかしくなったケイは視線を少し逸らした。
「そういえば香澄ちゃんは家はどこなの?」
「はい。私の家は鶴沢台です」
「そっか……じゃあ、富士見町の駅から電車に乗らないとダメなんじゃないの?」
「……いえ、もうじき迎えの車が来ますので大丈夫です」
「そうなんだ、なら安心だね。じゃあ、迎えが来るまで一緒にいてもいいかな?」
「はい。でも、お姉様は時間も遅いですし大丈夫なんですか?」
「気にしない気にしない。こっちは大丈夫だから。あと、お姉様は本当に抵抗あるから止めて貰えないかな」
ケイは苦笑しながら香澄に言うと、香澄は「わかりました。それではケイさんと呼ばせてもらいますね」と笑いながら言った。
こうして二人は迎えの車が来るまで談笑をしたのだった。


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