宴 〜契約〜-5
「……………………………………………………は?」
「胤真が……好きだから」
もう一度、智佳は言う。
「……………………もう一度」
「胤真が……好き」
「…………もう一回」
「胤真……好き……」
「……嘘じゃない、んだな?本当なんだな?」
「うん。好きよ、胤真が」
胤真をぎゅっと抱きしめながら、智佳は言った。
ぽろっ……
「あ、あれ?」
胤真は、狼狽した声を出す。
「ごめんね、待たせて」
智佳は胤真を振り向かせ、頬を伝うものをキスで拭い取る。
「私とは……塩井さんや由香理さんみたいに、体だけの関係じゃないんだよね?」
胤真の顔を覗き込み、智佳はそう尋ねた。
「当たり前……だろっ……俺だって……智佳が、好きだ」
「嬉しい……」
智佳は胤真の膝の上に向かい合って座り、唇を胤真の首へと滑らせる。
「お、おい?」
慌てる胤真に、智佳は断固とした口調で答えた。
「お願い、やらせて」
体を緊張させていた胤真は、その言葉で体の力を抜く。
「伯祖父様のおかげで、告白する決心がついたんだ」
「爺さんの?」
「うん……」
智佳は、胤真の着ているシャツを脱がせた。
力強い両腕。
やや厚めの胸板。
綺麗に割れた腹筋。
「全部……私のものにしたい」
胤真の耳へ熱い吐息を吹き掛けるようにして、智佳は囁き……
れろっ……ちゅっ……ちゅうっ
耳から首へと舌を這わせた。
鎖骨へ舌を這わせながらもどかしげに服を脱ぎ、ブラジャーごと乳房を押し付ける。
胤真の手が背中へ回り、ブラジャーのホックを外した。
「後で、説明するから……今は、胤真が欲しい」
「わ……分かった」
智佳は、胤真の唇を奪った。
「ありがと」
軽いキスを何度か繰り返した後、智佳は胤真の乳首を舌で捕える。
「っ」
何度となく絡め合った濃いピンク色の舌が自分の体を愛撫していると思うと、胤真の反応は自然と激しくなった。
「っく……と、智佳っ……!」
「んっ……ん……」
舌先で捏ね回された小さな乳首は堅く立ち上がり、胤真に与えられている快感の度合いを智佳へ伝える。
智佳は、ため息をついた。
「胤真……気持ち、い?」
濡れた瞳で見上げられ、胤真の背にゾクリとした快感のパルスが走る。
そして……智佳を抱きしめた。
「確かに気持ち良いけれど……俺はお前を攻めてる時の方がもっと気持ち良いんだ」
智佳は、思わず微笑んだ。
「うん……」
胤真はベッドに横たわり、苛立たしげにシーツを捏ねくり回していた。
「ちょっと準備があるから、先に行って待ってて……裸で」
そう言って別行動をとってから、早十分近く経過している。
「お待たせ」
「何だ、ずいぶん遅か……何だよ、それ……」
乾いた声で、胤真は尋ねた。
全裸で部屋に入って来たのは当然にしても、その腰に違和感のある物が装着されているのだ。
「何に見える?」
それは、どこをどう見ても……。
「……貞操帯」
「ご明答」
胤真は、ベッドの上へ起き上がる。
「由香理さんに頼んでアダルトグッズショップを紹介してもらったんだけど……見つかって良かった」
「一体なんのつもりだよ……」
「こういうつもり」
智佳は、片手を差し出した。
「これ、鍵ね」
胤真が口を挟むより早く、智佳は喋り始めた。
「まだ間に合うから……今のうちに言っておくね。好きだと自覚した今、抱かれたら……私は一生、何があっても胤真に奉仕する。もしも私を捨てずに一生飼い続けられるなら……その覚悟があるのなら、これを外して」
智佳は、淋しげに微笑んだ。
「これは私が、胤真に一生を捧げる証だから……」
「智佳……」
胤真は、ためらう事なく片手を伸ばす。
鍵を取り、錠を外した。
ごとんっ
重い音がして貞操帯は床に落ち……智佳は、ベッドの中へ引きずり込まれる。
「俺はしつこいんだ。一生、飼い続けてやる」
智佳は、胤真へすがりついた。
「うん!!」
―二人は、お互いを激しく求め合う。
ようやく心を繋げられた喜びが、理性という単語を忘れさせていた。
「かっ……噛んで!あの時、みたいにっ……!」
智佳の叫びに応え、胤真はしこり立った乳首を血が滲む程に強く噛む。
「ああっ、胤真っ……!」
「………………………………おい」
その一言が引っ掛かって、胤真は愛撫を止めた。