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【SM 官能小説】

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宴 〜肛虐〜-1

頭脳明晰、容姿端麗、運動万能、品行方正、人格潔癖……エトセトラ、エトセトラ。
つまり、清く正しく美しいを地で行くお方という事になるのだろう。
おまけに父親はどこぞの大企業の社長を勤め、母親は一流のファッションデザイナーときた。
さらに、それらのバックボーンを鼻にかけない謙虚さをも持ち合わせている。
……とは世間様一般の評価である。
実物はそれを裏切って余りある事を、少女は嫌というほど知っていた。
飲酒喫煙は言うに及ばず、下半身の乱れ方に至っては筆舌に尽くしがたい。
その割に女性関係が表面化して来ないのは不思議でたまらなかったが、その理由はある日身をもって体験する事になる。


最近市立第一高校二年B組の教室は、放課後になると黒山の人だかりができていた。
構成は女子生徒が九割、男子生徒が一割だろうか。
その中心にいるのは、一人の女子生徒だった。
「エンペラーの正位置、ホイールオブフォーチュンの正位置、それに、スターの正位置……間もなく素敵な男性が現れるわ。頑張ってアタックしてね」
そう言われた女子生徒、本来なら『うおっしゃあ〜!!』とでも叫びたいところを、
「うっそ!?が、頑張るわっ!」
と控え目に言ったのは男子生徒が一緒に聞き耳をたてているからだろう。
−放課後に二年B組の教室へ人だかりがするのは、この無料タロット占いが理由だった。
占うのは素人だが、かなりな高確率で当たると評判である。
当人にしてみれば単なる趣味の一環でしかなく、素人故にカードの読み解き方がストレートだから、周囲が当たると勘違いしているのだと思っているのだが。
「え〜、そろそろ時間ね。じゃあ皆さんまた明日という事で!」
隣にいた仕切屋の友人が終了を告げると、占ってもらえなかった生徒達が口々に不満の声を漏らす。
「んな事言ったって……ほらお迎えがそこに」
友人が、教室の出入口を指差す。
「……気が付いてくれてありがとう」
出入口の所に佇んでいた長身の少年が、苦笑しながらそう言った。
「さ、智佳。一緒に帰ろうか」
自分にしか向けない、特別な笑顔。
そう言われると、何やら恋愛関係でもありそうだと勘違いされる向きもあるが……。
「はあ……」
不安で引きつる口許を隠しながら、草薙智佳(くさなぎ・ともか)は少年−草薙胤真(くさなぎ・かずま)を見る。
−決してそんな甘い関係でない事を、智佳当人は良く知っていた。
同姓という事からお分かりになる方もいらっしゃるかも知れないが、この二人は血縁関係−詳しく言えば、再従兄弟に当たる。
しかも胤真の方が年上で、家の格が高い。
昔馴染みの家意識が色濃く残る草薙家では、主家の血筋に当たる年上の胤真に再従姉妹とはいえ分家もいいところの出身で、しかも年下である智佳が反逆するなど、たとえ天変地異が起こっても決して許されない事だった。
「いや、あの……今日は予定が……ねえ?」
助けを求めて友人を見遣ると、友人はあっさりと智佳の願いを裏切る。
「あら、私との予定なんか後でもいいじゃない。それより、胤真様をお待たせしちゃ駄目よ」
−このセリフが心からの善意である分だけ、始末が悪い。
「そ、そお……それぢゃあ、また明日……」


「……やり方が汚い」
公園でソフトクリームなど舐めながら、智佳は呟くように言った。
隣でジュースを飲みながら、胤真はちらりと視線をよこす。
「何が?」
「束縛される事、早十年……うんざりしてると言ってるの」
智佳の出す険悪な空気を、胤真は鼻で笑った。
「お前は俺の弱みを一つ。俺はお前の弱みを二つ握っている」
「うっ……!」
唸る智佳に、胤真は言う。
「だいたい五年前に握った二つ目の弱みに関しては、前面的にお前が悪い」
にやっ、と胤真は意地悪く唇を吊り上げた。
「何たって、部屋に鍵もかけずにか……」
「わーっ!!」
思わず叫ぶ智佳の口をすかさず掌で押さえ、胤真は言う。
「だいたいなぁ、お前が俺の本性に気付くような敏感なアンテナを張ってさえいなければ、お前とは年が近くて仲のいい再従姉妹の間柄で済んだんだぞ?」
「ぐむむ……!」
思わず、智佳は唸った。


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