宴 〜忌憶〜-6
6 「凄い……!」
「繋がってるとこを見て、興奮してるな?」
胤真は、智佳に口付ける。
「きつくて、動かしづらいぞ」
「だ、だって……繋がってるとこが、こんなにいやらしいなんて……恥ずかしいけど、気持ち良い……くふ、んうあああんっ!」
智佳が足を引きつらせた。
胤真が、含み笑いを漏らす。
「もうイキそうか」
胤真はゆっくりと腰を動かし、焦らしに焦らす。
―と、その時。
「わ、凄い。地面がびしゃびしゃ」
智佳の体は一気に冷えた。
胤真も、腰を止める。
葛城響子が、すぐ傍まで来ていた。
「か、葛城さん……挨拶回りはもうよろしいんですか?」
胤真の声に、響子はうなずく。
「ええ。今夜の参加者は少なめだから」
響子が、近付いてくる。
「私達も、混ぜてもらえないかしら?」
まずい。非常にまずい。
「あ……そうそう。いい加減に顔見せしてあげないと、不公平よね」
響子は屈み込み、少年の目隠しに手をかけた。
「駄目っ……!!」
智佳が、かすれた声で叫ぶ。
だが響子には聞こえなかったらしく、少年の目隠しは外されてしまった。
現れた顔に、智佳と胤真は驚く。
「お前はッ……!?」
「そんなっ……!?」
二人の唇から、同時に声が漏れた。
「あ、あら?」
響子が、目をしばたたく。
「知り合い……なの?」
「ええ、まあ……」
苦い声で、胤真は答えた。
「まさかこんな再会をするとは、夢にも思いませんでしたけどね……」
そう言って、唇を歪める。
「久しぶりじゃないか、新見」
それは、今から四年前の事。
「ぶわっちー!!」
冷房の効いた館内から吐き出された二人は、たちまち吹き出してくる汗に辟易した。
「あ〜、畜生!何だって図書館はこんなに早く閉まるんだ!もちっと涼しくなってからでもいーじゃねーか!」
「ほーんと」
新見祐一の言葉に、草薙智佳は同意した。
ゴロゴロゴロ……
「ま、愚痴をこぼすのもいいけど……なんか、一雨きそうよ」
朝からの曇り空は、だいぶ怪しい雲行きとなっている。
「そりゃまずい。送ってくよ」
「え、でも……」
ためらう智佳に、祐一は笑みを向けた。
「雨で濡れるくらい、男の俺はどうって事ないよ。それにさ、俺達……こ、こ、こ、恋人、なんだし」
智佳は、一瞬で茹でダコになる。
それは、祐一も同様だったが。
「……送って、行きたい」
端から見ていても、付き合いたてほやほやの初々しいローティーンのカップルが、そこにいた。
「……うん」
ぱたっ……ぱたぱたぱたっ……ばたばたばたばたっ
「うわ……走るぞ!」
たちまちのうちに降り出した、バケツをひっくり返したかのような雨。
その中を祐一は、智佳の手を引いて走り出した。
―ひどい土砂降りの中、二人はようやく草薙家へたどり着く。
「……あれ?」
玄関には、鍵が掛かっていた。
「お母さん、いないんだ……」
智佳の呟きが、性少年の一部分へ急速に血液を集めてしまう。
お母さんもいない家に、好きな女の子と二人きり。
「まあ、いいか。祐一君、上がって。いくら夏でもこのままじゃ風邪引いちゃうよ?」
―その後、なんだかんだで一時間が経過した。
シャワーを浴び、乾かした服を着て、二人は智佳の部屋に落ち着いている。
シャワーを浴びたての体から放たれる少女特有の甘ったるい体臭に、祐一の理性はめちゃくちゃにかき回されていた。
「……雨、止まないね」
そんな様子に気付かず、智佳は呟く。
「……」
智佳の隣に腰掛ける祐一は、返事をしない。
「ごめんね。まさかお父さんの傘に、穴が開いてるなんて……」
、。
「……」
「女物の傘じゃ、差して歩くのも恥ずかしいだろうし……」
「……」
「……祐一君?」
「……」
祐一は空中を見つめているばかりで、智佳の言葉にまるで反応しない。
「祐一君……?」
不審に思った智佳は祐一の両頬に手を当て、自分の方を振り向かせた。
ぴとっ
「……熱は、ないよね」
おでことおでこがぴったんこ。
「祐一君、大丈夫?」
目の前で踊る、みずみずしい唇。