たんぽぽは風に揺れて-2
(2)
情けない行動をとるようになったのは程なくのことだ。妹の部屋に入るようになってしまったのである。
数年前まではしょっちゅう出入りしてゲームをしたりテレビドラマの話などをして夜遅くまで過ごしたものだった。夏など、スリップ姿の志麻子と話していても何も感じなかった。だが、いまは……
(におい……)
部屋にこもったにおいにさえ興奮した。人肌を想起させる甘酸っぱいほのかなにおい。男にはないやわらかさがある。ベッドに顔を埋め、大きくにおいを吸い込む。
(ああ、志麻子……)
枕には汗のにおいも混じっていて、それは決していやなにおいではなく、刺激的である。脱ぎ捨てられたパジャマは、さらに興奮をあおる。顔に押し当て、体臭を貪るように嗅ぐ。
(ああ!いいにおいだ)
目を閉じると妄想が膨らんでくる。パジャマを身に着けた志麻子が浮かぶ。股間の辺りに口をつけ、さらにその部分を咥える。
(割れ目が当たっていたところだ……志麻子!)
もう我慢できなかった。いきり立ったペニスを引き出し、パジャマを巻き付けて扱いた。
「ああ!」
目を閉じて描くのは志麻子の性器に差し込んだ場面だ。根元まで埋め込み、引き抜き、また押し込む。
(気持ちいい!気持ちいい!)
女を知らないから実感、感触などはわからない。が、そんなことはどうでもよかった。目の前に横たわった志麻子を思い描き、開いた股間に覆いかぶさる妄想に快感が突っ走っていた。
枕を抱えてベッドにうつぶせになって腰を動かす。枕は志麻子の顔になる。キスをする。何度も何度もキスをする。
(ああ!)
限界が近づく。パジャマに精液を付けられない。代わりにタオルを巻き、枕を抱いて突き上げる。
「うう!」
全身を震わせて射精の衝撃が貫いた。
不健全な自慰行為だという罪悪感はあった。
(妹なんだぞ……)
何度も自問し、苦しんだ。倒錯した性のはけ口……。だが抑えることはできなかった。志麻子の部屋で彼女の持ち物に囲まれ、むせ返る女のにおいの中で陶酔するオナニーの快感は格別であった。我を忘れる恍惚の世界へいざなってくれるのは志麻子だけだった。
いつしか志麻子は俺の中で『女』として生々しく息づくようになっていた。愚かな妹と強く蔑む感情がありながら、まったく別の自分がいとおしくし志麻子を抱きしめている。自分でも理解できない心の歪み、性欲のうねりであった。
そのうち、他の女に気持ちが揺らぐことがなくなった。アイドル、同級生、街ですれ違う美人にも関心がなくなっていった。
無理なこじつけかもしれないが、俺が第一志望の大学に合格できたのは志麻子のおかげだったと思っている。妹の存在が思春期のほとばしる性欲を解消してくれたといっていい。高揚してくれば志麻子との想念の世界で思う存分満たされ、心身ともに幸福感に包まれた。単に溜まっていたものを放出したというものではなかった。初めのうち感じていた罪悪感はなくなり、オナニーのあとに残るけだるい脱力感もなかった。むしろ温かく、柔らかな心になるのだった。
(志麻子はいつもそばにいる……)
やすらぎはその想いから生まれてくる……。俺は志麻子を愛し始めていた。
その満足感は勉強に対する集中力を生み、他からの性的刺激を遮断した。俺の生活のリズムは志麻子の存在によって心地よく循環していったのである。