イミテーション-2
こんな時…。ふと思うことがある。なにもこんな所でこんなふうにしなくても、自宅で一人の時にゆっくり楽しめばいいじゃないか、と。
実際、家で普通にしようとすることは今でもあるのだが…。すぐに気持ちが抜けて続かないのだ。
見られるかもしれない、バレるかもしれない。
そんな状況、そんなやり方…。そうでなければ十分に欲情を満たすだけの深い悦楽の淵に沈むことが出来ない…。私はそういう女になってしまった。こんなに歪んだ、しかしこの上もなく身を焦がす悦楽を知ってしまったこの体…。もう、戻れそうにない。
隣の人が動く気配がした。
私はさりげなく胸から指を放し、腕組みを解いて数歩後ろに下がった。
そんな私の行動に関心を示すこともなく、人々は横へ横へと移動しながら絵を見ている。
スカンツの下腹部のあたりをしっかり掴んでギューっと引っ張り上げた。スカンツの股は私の谷間に深く食い込むと同時に、敏感な蕾を擦り上げた。
うっ、くうぅ…。
異物がめり込んできて擦れる新鮮な快感に、あやうく声を漏らしかけた。
ちなみに、パンティは穿いていない。スカンツはダイレクトに柔肉に擦り付けられている。ザリザリとした布地の感触を伴って。
ああ、すてき…。
私は何度もスカンツを引っ張り上げた。強く、弱く、早く、ゆっくり、右に、左に、大きく、小さく…。絵を見ながら横へ横へと流れていく人々をぼんやり眺めながら、休むことなく手首を動かし続けた。
「ん?」
何かの気配を感じて横を見ると、私と同じように列の後ろから絵を眺めている人がいた。
赤い花飾りの麦わら帽子、ピンクの小さな花びらをちりばめたフワリと軽いベージュのワンピース、腰まである赤毛のウェーブヘア。
「え…。」
私は思わず手を止め、彼女にみとれてしまった。
だって、あまりにもそっくりだったから。
目の前の絵の全裸の少女を着衣で描いた作品がある。その姿はいま隣に居る女性とまるで同一人物の様にそっくりなのだ。
もしもこの人があの絵と同じように麦わら帽子以外の全てを脱ぎ、モデルをしたら…。そんなことを考えてしまった。彼女は恥ずかしさにじっと耐えるのか、それともなんらかの情念をその身にいだくのか…。
私の手がスカンツを放した。
ダメよ。
左手の親指と人差し指がスカンツのファスナーのタグを摘まんだ。
ダメだってば。
チー、っとそれを下ろした。
やめて。
右手が、他の誰のものでもない私の右手が、スカンツの中に吸い込まれていく。
やめて!
パンティは穿いていない。
やめ…て。
指先が敏感な蕾に触れ、それをこね回した。
そんなこと…。
さらには谷間を這い下っていき、
何してるの!いくらなんでも、こんな状況でそんな所に…。
自分自身の中にズブリと侵入した。
あはぁっ…あうぅ…すご…い…。
不意にワンピースの女性がこっちに振り向いた。
私はとっさにシャツでスカンツの前を押さえ、手を引き抜いた。
「こんにちは。」
声を掛けられた。
「こんにちは。」
彼女は見た目の通りの上品で落ち着いた声をしていた。その瞳は憂うように濡れている。
「近づいて見るのがお好きな方が多いんですね。」
透き通るような白い肌、赤い髪。その容姿から予想した通り西洋人のようだ。十分に流暢な日本語だが、語尾などに若干の違和感がある。
「そうですね。」
彼女の視線の先には、柵から身を乗り出し、顔を突き出して絵を睨んでいる人々の姿があった。
「絵というものは、少し離れてなんとなく眺めるように描かれておりますのに。あんなに近づいてしまったら、テレビのドットを凝視しているようなものですわ。」
なるほど。いい表現だ。
「あなたにはそれが分かってらっしゃるんですね。」
確かに。少し後ろに居るのにはそういう理由もある。でも…もう一つの理由、それは言えないなあ。
「ええ。分かる、というか、こうした方がいいような気がするだけなんですけどね。」
彼女はにっこり微笑んで頷いた。
「それが大事なんだと私は思いますよ、自然に感じるという事が。感じる事は自分を知ること。」
感じる事で自分を知る…。
絵の方に視線を戻した彼女がポツリと呟いた。
「私、あなたに見られたことがあるような気がしますの。」
「え?」
私に横顔を見せたままでさらに続けた。左手で左胸を隠すような仕草をしながら。
「お会いしたことがある、とかお見かけした、とかではありませんの。見られたんです、あなたに。何度も。」
外国人ゆえに日本語の言い回しが少しズレているのだろうか?いや、違う。
「…不思議です。私もあなたを何度も見たような気がするんですよ。」
彼女は再び私に振り向き、視線を股間に向けた。
そしてゆっくりと私に歩み寄り、耳元で囁いた。
「開いてますよ。誰かに中を見られちゃったら大変だわ。」
彼女は花のような笑顔を浮かべて私から離れていった。