4-6
「……久しぶりだな」
初老のオッさんは、2人が抱き合う傍にやって来ると、フッと眉間を緩めて柔らかな笑みを浮かべた。
男の声に、莉奈は急に険しい顔になって、夢威叶の身体を僅かに離す。
……この男か。
妻がいたのに莉奈を妊娠させ、堕胎を要求し、挙句にゴミのように捨てたという男。
彼女からその話を聞いた時にはどんな鬼畜な野郎なんだと思っていたが、意外にも優しそうでなかなかシブい男だった。
だが、莉奈は下唇をギュッと噛み締め、再び夢威叶を抱きしめるとジッと男を睨みつけた。
今にも噛みつかんばかりの形相に、苦笑いになったオッさんは、バツが悪そうに耳の下をポリ、と掻いた。
「そんな怖い顔をするな。せっかく夢威叶を連れてきてやったってのに」
「……何の用ですか?」
夢威叶の存在すら否定していたくせに、自分に子供が出来る見込みがないとわかった途端に、彼を莉奈から奪ったこの男を、彼女は何もかも信じていないようだった。
「ひどい嫌われようだな」
「当たり前でしょう!? あんたがあたしにしてきた事、絶対許さないから!!」
そう言って、彼女は夢威叶を抱き締める腕にさらに力を込めていた。
「……莉奈、君には本当に申し訳ない事をしたと思ってる」
「だったら、夢威叶を置いて今すぐ消えてよ」
「だが、それは出来ない。もう夢威叶は私の息子として法的にも認められているからな。夢威叶は私の息子なんだ」
オッさんの言葉に、今にも殴りかかりそうになっていた自分がいた。
いつの間にか震えた手が拳を握り、奥歯をギリリと軋ませて。
コイツ、何しに来たんだよ。
この男は、莉奈にぬか喜びだけさせて、また絶望の淵に立たせるっていうのか?
ふざけんな。そう叫ぼうとするよりも早く、男はカツ、と高そうな革靴を鳴らし2人の側に近づいた。
そして、夢威叶の頭を優しく撫でると、莉奈を真っ直ぐに見つめた。
心無しか、その瞳に狡猾さも冷酷さも感じることはなかった。