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俺が去って、また1人になって、アイツは淋しさに負けていないだろうか。
激しく抱いて、疲れ果てた莉奈が眠っている間に、彼女のマンションを後にした。
艶っぽい表情から一転した、あの邪気のない寝顔に「メリークリスマス」と告げた俺は、何故だか胸が苦しくなった。
こんなにも後ろ髪を引かれるような思いで「メリークリスマス」なんて言ったことなんて、なかったな。
ゆっくり目を開けると、
「あ、雪」
明け方にはすっかり止んでいた雪が、またひらひらと舞い降りて俺の鼻の頭にちょんと落ちた。
ホワイトクリスマスのジンクス、やっぱり外れたな。
何もかもなくしてしまった俺は、これからどうすればいいだろう。
いきなり人間として生きていけと言われたって、身分も何も証明できない奴がどうやって社会に溶け込めるというのだろう。
もはや打つ手なしの俺は、途方に暮れて空から降ってくる雪をボンヤリ眺めていたその刹那、
「……サンタさん?」
と聞き覚えのある声がした。
途端に蘇る、数時間前のあの肌の温もり。
何度もキスをして、激しく求め合って、一つになったあの女。
ゆっくり振り返った俺は、その姿を見た瞬間、堪えていた涙が一筋流れるのを確かに感じていた。
なのに目の前の彼女は、くたびれたパジャマに、いつ買ったかわからないような色褪せたモッズコート、そして両手にはパンパンに膨れたゴミ袋をという、生活感溢れる格好で首を傾げていた。
「どうしたの、こんな所で」
ほんの数時間前まで、あんなに艶かしい表情を見せていた彼女は、キョトンとあどけない顔で俺を見ている。
……お前と別れて、センチメンタルになっていたのは俺だけかよ。
だけど、その何も知らないとぼけた顔が逆に救われた。
そう、俺はコイツの存在に救われていたんだ。
息子を奪われ孤独の身になってしまった、可哀想な莉奈。
大人なのにサンタクロースが見える、純粋な莉奈。
そんな彼女だから、全てを失ってしまった俺のことを受け入れてくれるかもしれない。
あんなに肌を重ね、見つめ合ったあの瞳を思い出す。
貪欲に俺を求めたあの眼差し。
それを思い出しながら、俺は恐る恐る口を開いた。
「莉奈、実はさ」
そう口に出しかけた瞬間、莉奈の息を呑む音がハッキリ聞こえた。