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もう一度言う。
俺の姿は、サンタクロースの存在を心から信じている人間にしか見えない。
だから俺の姿が見えるのは、せいぜい小学生までの子供くらいなのだ。
しかも今は、草木も眠る丑三つ時。
こんな時間に起きている子供なんて、ほぼ皆無に近い。
今までの経験からそれをわかっていた俺は、この状況に頭が真っ白になっていた。
だって、俺が今対峙している相手は、立派な大人の女だったから。
「プレゼントって、何……?」
俺が返事をしないからか、女はもう一度訊ねてきた。
歳は、30代半ばくらいか。
ボサボサの長い髪、病気なんじゃないかと思ってしまうほどの青白い肌、ガリガリにやせ細った身体、そして虚ろな瞳。
この女の何もかもが異様で、俺の心臓がバクバク鳴る。
コイツが奥野夢威叶の母親なのか……?
まず、俺の姿が見えることにツッコミたかったのだが、このホラー映画に出てきそうな風貌に、俺の直感が“コイツを刺激してはいけない”と警告してきたので、プレゼントの内容に触れずにまずは、
「あ、俺、サンタクロースです」
と、極めて無難な挨拶をした。
言ってしまってから、やっちまったと、額に手をあてる。
だって、サンタクロースと名乗った所で、俺は夜更けに人の家に勝手に上り込む、言わば不審者だ。
大抵の大人なら、悲鳴をあげたりするはずだ。
「あ、いや、あのですね……。信じられないかもしれないけど、俺、本当にサンタクロースでっ、プレゼントを持ってきて……」
慌てて身の潔白を証明しようと、プレゼントを入れていた白い袋から、クリスマスカラーでラッピングした小さな箱を取り出して、女に見せる。
悲鳴を上げられたら終わりだ。
サンタ・カンパニーの社員の絶対ルール、人間に迷惑をかけてはいけない。
それを破ったら、問答無用で解雇となってしまう。
生唾一つ飲み込んで、女が悲鳴を上げたり、警察を呼んだりするかを伺っていると、
「サンタクロースが来てくれたんだ……」
と、僅かに口元だけを少し緩めて、そう呟いた。