忘我6-1
手のひらで腹を覆うようにして支え、奈津子の首を後ろにひねり、身を乗り出すようにしてズンとペニスを差し込んだ。眉間にシワを寄せ目を細める岩井に、奈津子は羞恥を隠せなかった。未だ、どんなにセックスをこなしても、岩井の顔に息を吐く行為にためらいがある。
唇に視線を当てたまま、二度、三度と突き上げる。そのたびに、奈津子は悲鳴のような声をあげ、腹の底から息を吐く。
濡れたような奈津子の唇に、岩井は生唾を飲み込んだ。
「我慢できん……」
小さな頭部を引き寄せて、衝動的に唇を吸い取った。
舌がのど奥まで挿入する。まるで初めてのキスのように気が急いていた。岩井の興奮が伝わり、奈津子は唇をあの字に開き、舌をからめていった。
「ふん、ふぅん」
堰を切ったように唾液を吸い合う。密着している唇同士は唾液で滑る。唇を中心に岩井の顔が左右に揺れた。
ひとしきり吸ったあと、名残惜しげに舌を引き出していく。
「恵の口も、こうして吸った」
奈津子は息をのんだ。
突然の、残酷な告白だった。
ショックで身体をこわばらせる奈津子とは逆に、岩井はその粟立った柔肌を、鎮めるように撫でている。
「一晩中、恵の唾を味わった」
「いやーッ!」
再び岩井が唇を押し当ててきた。
「やめッ……んんッ!」
奈津子が激しく首を振るのでカチカチと歯が当たる。かさついた岩井の唇はかすかに震えていた。それでも強引に唇を塞ぎ、舌を滑り込ませていった。
奈津子の頬に涙が滴る。奈津子は強く歯を立てた。
刃向かうのは初めてだった。あとで激しい体罰を受けなければならない。
それでも奈津子は歯を食いしばった。岩井は「うッ」と呻くが、唇を密着させたまま、奈津子の口から舌を抜かない。抜かないどころか、奈津子の頭部をしっかりと抱きかかえていた。深々とペニスが入っている白い腹を優しく撫でる。
奈津子は筋肉質の腕に爪を立て、ガクガクとあごをふるわせ、肉厚の舌を噛んだ。口の中に塩辛い味が充満する。合わさった唇から血が滴った。爪が岩井の肩に食い込み、血がにじんだ。
舌を噛まれながらも、岩井は行為はやめなかった。
いつもなら瞬間的に頭に血がのぼり、失神するまで殴りつけるのだが、そうはせず、腹から脇腹をそっと愛撫しながら、奈津子の性器に触れた。
奈津子は首を振って抵抗を見せるが、岩井は動じない。頭部を抱きかかえ、強引に舌を入れ直すことさえする。結合を解こうと腰を振る行為は、岩井に強い快感を与えていた。
噛む力が弱まると、奈津子の口中を舌でまさぐり始めた。紫色に近い苔のようなものがびっしりと付着した舌が、ヌルヌルと出たり入ったりしている。しだいに、あごの力が抜けていく。
さらに、埋まっていない部分を確認するかのように、結合部をヌルヌルと弄くりながら、髪のなかに太い指を潜らせ、頭皮をザラリとこする。腰を浮かせ、付け根の陰毛までも奈津子の膣に挿入する。すぐにその陰毛が奈津子の膣から顔を出し、また、潜る。
もぐもぐと蠢かせていた唇を、ようやく離す。唾液の糸は赤く染まっていた。舌は血まみれだった。その舌で奈津子の上唇の裏側を舐める。
「恵も、こうして、接吻を覚えていった」
「いや、いや、いや……」
泣きながら童女のように首を振る。
「恵と同じように、お前の舌を唾を、丹念に味わいたい。ワシの舌をかみ切ってもかまわん」
ふたたび、半開きの唇に舌から挿入していった。血の香りが鼻に抜けた。
岩井は腰を使い、奈津子を突き上げた。
殺意すら抱いた奈津子だったが、体の深奥にある、性悦のうねりは消えなかった。肉襞をえぐる肉塊がすべてを粉々に砕いていく。
口いっぱいに、ぬるりと舌が挿入されると、奈津子は唇を大きく開いた。
密着させた唇を中心に、岩井の顔が小さな円を描く。奈津子の口の中で、二人の舌が濃厚に絡み合う。
熱い鋼鉄のような亀頭が繰り返し子宮を突く。膣の中は愛液で満たされていく。亀頭の先端からもドロリとした体液がにじみ出ているはずだ。それぞれが膣の中で混ざり合い、ますます動きがスムーズになっていく。
乳房への愛撫は執拗だった。奈津子の上半身を隠してしまうくらい手のひらは大きい。
「ん……ん……んふ」
塞がれた唇から漏れる喜悦の声。
舌を絡め合う水音を聞かせながら頭部の戒めを解いてみて、唇が離れそうになると再び頭部を抱きかかえて、濃厚なディープキスに戻る。奈津子の鼻息がなまめかしく変化していった。