セイフクノカノジョ-2
最初は終業後に喫煙所で話し込んで、2回ほど2人で飲みに行った。3回目でようやく、家飲みしようと誘ったのだ。まさかOKしてもらえると思わなかったのだが。
「課長?」
ついあの頃を思い返して黙りこんだこちらを、気遣わしげに見上げている。
「あぁ、悪い。あの頃はまさかルカとこういう関係になるとは想像もつかなかったな、って思ってさ」
「私は最初から課長のこと狙ってましたよ?」
「全くこのお嬢さんは。そんな可愛いこと言うと、このまま拉致して帰るぞ?」
「お腹すいたから、ご飯食べてからにしましょ?たまにはちゃんとした夕飯食べてください」
ちょうど目的の店に着いて、暖簾をくぐる。慣れた様子で店主らしき男性に挨拶をして、2階へ上がっていった。
「ハルカちゃんがこんな時間に珍しいわねぇ」
「残業してたらお腹空いちゃって。上司がご馳走してくださるって仰ったんです。ここなら美味しいご飯食べられますから」
「あらあら、お疲れ様。ごゆっくりね」
飲み物のオーダー、生ビールを2つ、を取ると人の良さそうな女性の店員さんはこちらに会釈をして部屋を出ていく。
「時々お昼に来るんです。2階なら煙草も吸えるし、お魚料理が美味しいんですよ」
メニューをこちらへ向けて拡げながら、ルカが言う。刺身の盛り合わせと今日のおススメだという焼き魚、ルカのお気に入りだという揚げ出し豆腐、茄子の漬物を頼んで、届いたビールで乾杯。
「稲生さんは旨そうに飲むなぁ」
ルカ、と呼び掛けようとして留まる。昼はウチの会社の人間が通っているようだし、ルカは先ほどの店員さんに上司だと紹介していたし。こちらの意図に気づいたのか、ふわりと微笑んだ。
料理はどれも美味しく、当たり障りのない会話を楽しみながら食事をして店を出た。
「旨かった。もっと早く教えてもらえばよかったな」
並んで駅とは反対方向へと向かう。コンビニに寄るため、少し遠回り。店の目と鼻の先にいつも仕事帰りに寄るコンビニがあるのだが、さすがに会社に近すぎて、2人で買い物をするのは無防備すぎる気がしたのだ。喫煙所であんなことをしておいて、何を今更と思わなくもないのだが。
飲み物と煙草、明日の朝食とプリンを買って、家に辿り着く。
玄関の扉を閉めた途端、ルカに抱きついて唇を奪った。ルカの唇は、特にお気に入りだ。
「おかえり」
結構勇気のいる一言だったのだが、驚いたような真ん丸の目が、満面の笑みに変わる。
「ただいま」
「ちょっと待ってて。今片付けるから。買ってきた荷物冷蔵庫に入れるのお願いしてもいいか?」
はい、と気持ちのいい返事をしたルカの持っていた荷物を受け取り、コンビニの袋を託す。行儀よく脱いだ靴を揃えて上がったルカは手慣れた様子で手を洗うと、袋から出した荷物を片付けていく。
「ホントに冷蔵庫空っぽでしたね」
くすくす笑いながら、手際よく片付けたルカが部屋にやってくる。
「全然買い物行けてないんだって。さて、ルカさん。制服に着替えておいで」
「はいー?本気ですか?」
「本気です。何ならここでストリップショーしながら着替えてくれてもいいぞ?」
「それはイヤです」
「ってことは制服はオッケーってことだな。はい、着替えておいで」
抵抗は無駄だと悟ったルカは、差し出したハンガーを受け取り、ボストンバッグを持つと脱衣場に消えた。その間に干しておいた洗濯物を片付け、絨毯を軽くコロコロしてから、ベッドの布団を床に下ろす。普段なら帰るなりワイシャツもスーツのパンツも脱ぎ捨てるのだが、ルカにせっかく制服を着てもらうのだから我慢した。
脱衣場の扉が開くタイミングで、出迎えて一緒に煙草を吸う。
「やっぱり不思議な感覚だなぁ」
着替えを部屋に置き、代わりに煙草を持ってきた制服姿のルカにそう声をかけると、不機嫌そうな声で
「自分が着ろって仰ったんじゃないですか」
と返ってきた。
「でもルカの制服姿好きなんだよ」
はいはい、とあしらって火を付けた。並んで下らない話をしながら吸っていると、ここが自宅だということを忘れそうになる。ルカがいるだけで、ただ寝に帰ってくるだけの、くすんだこの部屋が、全く違った色に見えるのだ。
「ありがとな」
「え?」
「いや。来てくれて、着てくれて」
白いブラウスと、紺のベストに、紺のスカート。可愛くもなく、何の変哲もない事務服。腰に腕を回すと、少しだけ頭を預けるようにこちらにもたれ掛かってきた。
「課長に少しでも喜んでもらえたならよかったです。すんごい変な気分ですけど」
「エロい気分ってこと?」
「そうじゃなくて、もうっ。きゃぁっ」
後ろにまわり、胸を揉むと悲鳴を上げる。
「なんかイケナイことしてるみたいだな」
「んっ。せめて火を消してからにしてくださいっ」
ルカを目の前にしていると、どっちがオトナなんだかわからなくなる。見た目は小さくて、子供みたいな顔をしているのに。素直で従順なくせに、こちらをたしなめ、それを無視して攻撃を仕掛ければ、妖艶な表情でこちらを煽る。
すでに潤んだような瞳で誘うルカの指から煙草を奪い取ると、灰皿代わりの水を張った容器に押し付けた。そのまま細い指に自分のごつごつした指を絡めると、握り返してきた。もう片方の手は、ベストの上から遠慮なく胸の膨らみを刺激する。揉まれるよりも、乳首を刺激されるほうが好きなことは学習済みだ。シーズン問わず厚手なベストの上からでさえ、固くなり始めていて、漏らした吐息が拒んでいないことを物語っている。
されるがままになっているルカの胸を堪能しつつ、すでに準備が整ってしまった股間を腰に押し付けると、小さな身体が震え、振り返ってキスをねだる。