不倫の始まり-5
ドルフィンホテルには14時50分にタクシーで辿り着いていた。空き部屋を確認してみたが平日のこの時間帯は殆ど空室だった。受付のおばちゃんに断りを入れて1階の待合室で珈琲を頼んで香里奈の到着を待つことにしてあげた。
「もうすぐ着くわ。今度こそ一人よ。本当に来てくれるの?」
香里奈のLINEは正直に書かれている内容だった。添えられた写真はメイクをやり直した香里奈が地下鉄車内で撮ったと思われる笑顔が送りつけられていた。時刻が15時15分を過ぎた頃、裏側の非常口からヒールの音を響かせて待合室を通り抜ける香里奈を確認していた。
「着いたわよ。ねぇ、何処にいるの?」
LINEが香里奈の心境を伝えているようだった。それでも少しの間、香里奈の様子を見て何を起こすかを確かめていた。僕の携帯電話に着信が届いていた。サイレントモードに映る香里奈の電話番号が映し出されていた。放置した僕は、香里奈の行動を我慢強く見守っていた。香里奈は何度もフロント前を歩きながら携帯電話に向かってLINEを書き込んでいるようだった。
「ねぇ、お願い。許してよ。何でもするから来てよ」
十分な内容だった。ホテルの玄関に向かう香里奈の後ろから、ようやく声を掛けてあげていた。
「ここだよ、迷っちゃた」
香里奈は涙目で僕に抱き付いてしまっていた。来ないかと思った、怖かったよ。抱きしめる香里奈は泣いているようだった。優しく頭に手を載せて部屋に入ろうかと諭して最上階の広い部屋に向かって手を繋いでエレベーターに乗り込んで香里奈の肩を引き寄せてあげていた。
部屋の鍵を開けた途端、僕は香里奈に舌を絡める深いキスで襲いかかっていた。香里奈は嫌がる素振りなく舌を絡めて応えてくれていた。余程、不安だったんだろ香里奈は僕の首に腕を回して暫くの間、深いキスを求めているようだった。玄関で長い時間、深く濃いキスを続けていた香里奈は落ち着きを取り戻したかのように部屋に入ろうか。とさっきまでの不安から解放された安心感で僕を見上げていた。