第三章 たにま-1
「大変だったね、テツヤ君。」
家にいるときのラフなスタイルとは違い、機能的でありながら清楚な優しさも漂わせるナース服の姉さんが、事故で入院したテツヤに声をかけた。
「いえいえ、こうして瑠璃花さんに看護していただけるんですから、これが文字通りの怪我の功名ですよ。」
怪我の功名、ではなく不幸中の幸いだろ、と思ったがいちいちツっこむのはやめておいた。
「びっくりしたわよ、出勤したら患者リストに君の名前が有ったから。それにね、ここって三次救急に指定されてる病院だから、今回のテツヤ君みたいな比較的軽傷の場合は救急搬送されることはまず無いの。いったいどんな魔法を使ったの?」
「へへ、僕は特別なんですよ。」
救急指定病院には三つのレベルがある。高熱が続いて素人では対処できない、という程度が一時救急。手術や入院が必要と思われる場合は二次救急、そして、直ちに生命に係るような重篤な状態だと三次救急に指定されている病院に搬送される。つまり、今回のテツヤの様にバイクでこけて足の骨が折れた程度で救急搬送されるような病院ではないのだ。
「それにしても、どんな無茶な運転したの?大した怪我でなくてよかったけど、状況的には死んでてもおかしくないってドクターに聞いたわよ。」
「コイツ、悪運だけは強いから。」
「幸運の持主だと言ってくれたまえ、我友よ。こうして瑠璃花さんに看護していただけるんだから。」
「それなんだけどね、テツヤ君。私、君の担当じゃないの。」
「残念だったな、幸運の持主君。」
ブーンブ−ン、ブーンブーン…。
姉さんの胸ポケットの院内専用PHSがバイブを震わせた。
「はい。え?あ、そうなの?はい、はい。分かりました。」
姉さんがテツヤの方を見た。
「私、君の担当になったんだって。」
「よっしゃあ!」
「そんなことってあるの?いったん決まった担当が変わっちゃうなんて。」
「うーん、無くわないわよ、いろいろな理由で。」
「そうなんだ。」
「というわけで、あらためてよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いされます、瑠璃花さん!」
「なんだそれ。」
お見舞いに顔を出しただけのつもりだった姉さんは、一通り病室の備品を確認した。問題ないようだ。
「じゃ、さっそく患部の処置するね。」
俺の方を振り向いた。
「邪魔だから、その辺に適当に座ってて。」
「ほーい。」
テツヤの足の包帯を変えたり点滴の状態を確かめている姉さんはいつもと違って見えた。淀みなくテキパキと作業をこなしていく。なんて活き活きと輝いているんだろう。そういえば、看護師として仕事をしているところを見るのはこれが初めてだ。いつも俺に優しく朗らかな姉さん。その優しさが今は他の男に向けられている。
「痛て!」
「あ、大丈夫?」
「なんてね。」
「もう、ふざけないでよ。ふふ。」
「え…。」
「何よ、あんたまで。」
「あ、あー、いやいや。」
テツヤの処置をするために中腰になっている姉さんのお尻は俺に向けられている。ピッタリのサイズで体を包むズボンから、下着の線が浮き上がって見えている。柄もフリルも無いシンプルなデザイン。色も感じられない。おそらく純白かベージュの単色だろう。
付添い用パイプ椅子に座っている俺の目線の高さからは、お尻のかなり奥の方まで見えている。姉さんは大きくお尻を突き出しているため、ズボンの股の部分がお尻が深く挟み込まれているのも、股間に食い込んだ部分に中の形状を映し出すかの如く皺が寄っているのまで見えてしまっている。
「姉さん、いつもそのかっこうで仕事してるの?」
訊かずにはいられなかった。
「そうよ。5セット支給されてるけど、全部同じ。洗濯物干してあるの、見た事あるでしょ?」
「あるけど、着てるとこ見たの初めてだから。」
そうか。やっぱり他の男たちにもこんなところを見られてしまっているんだ。
「そういえばそうね。家や外では着ないから。」
「瑠璃花さん、それって、何ていうか…。」
「え?」
「やめとけ、テツヤ。」
「あ、うん…。」
「何よ、あなたたち。」
姉さんが上体を起こした。処置が終わったようだ。俺はなんだかほっとした。
「じゃ、また来るね、テツヤ君。」
「はい、お願いします、瑠璃花さん。」
姉さんは微笑んで病室を出ていった。
「バカ。」
「ごめん。」
「姉さんをナースプレイのオカズにすんなよ、テツヤ。」
「しないしない、多分しない。」
「多分、てなんだよ。」
「じゃ、する。」
「おい。」