忘我3-1
岩井のずば抜けた筋骨を全身に浴びる正常位こそ、田倉の体の記憶が希薄になっていった理由ともいえる。どれほど過酷な訓練を行えば、岩井のような筋肉や骨になるのだろうか。コンクリートのような質感の肌に抱きくるめられ、肉塊とは思えない硬いペニスで、臓物を引きずり出され、巻き込まれるうち、あんなに夢中だった田倉のペニスの形状すら、おぼろげな記憶になっていった。
正常位は快感が大きいのだろうか、射精する精液の量が多い。膣から抜かずに回復させ、そのまま二度三度とセックスをするので、膣内は大量の精液で満たされることになる。
膣括約筋をほぐすため、入り口付近で集中的に出没を繰り返すことはあるが、膣から亀頭までそっくり抜き去るようなセックスはあまりない。一度つなげると射精まで抜き去ることはない。
ヂュポと音を立て、膣からペニスが抜き去られる。気をやったばかりなのに、再び潜り込んでくる期待感に打ち震える。
カリの部分で陰唇を引っかけるセックスは思った以上の快感を生んだ。人の肌とは思えない樹皮のような肩に顔を押し当て悶えるしかなかった。
――入ってくるッ。
スッと息を吸い、呼吸を止め、膣口を緩めて、受け入れる準備をする。
「はぅ」
ヤスリのような肌で頬をこすられるたび奈津子は全身を引きつらせた。はじめは亀頭の先で位置を確認する仕草があったが、今はコントロールされた角度で、規則的に出没運動を繰り返していた。
クチュ……ヌポ……昂ぶりの相乗効果を果たす粘着音の下品な音。気をやるまで続くのだ。岩井の肩に爪を立てた。大きな顔が涙で霞む。ますます水音が脳髄を痺れさせていく。きっと蕩けるような表情。なんていやらしい女だろう。
「ちゃんと納めてやろう」
極太のカリ首が膣口を押し広げながら、岩井の腰が密着した。
「はぅッ」
期待通りの快感。おなかの底から息が出る。膣が収縮するのがわかった。岩井に快感を与えているだろうか。
少しずつストロークが大きくなる。胃袋まで圧迫するペニスの威力は絶大であった。
体勢を変えたのはビデオカメラで胯間の大写しを撮るためだろう。当初は見るのは嫌でしかたがなかった。映像の中の泡立つ股間を目にするたび、激しい羞恥にむせび泣いた。しかし今は目に浮かぶ下品極まりない結合部の残像が、フェロモンのように快楽器官を刺激する。抱かれていないときでも、品の欠片もない映像が脳内を巡るほどに。
この部屋にいるのは岩井と二人だけという事実に悦びさえ感じていた。大鏡に映っている淫らな部位は岩井だけに見られたい。
大きな手が強く頭部を抱きかかえている。指先で頭皮をこすり、重量のある腰で円を描く。奈津子は付け根まで納めてあるペニスの形状を体内で確認していた。
だらしなく弛緩した表情を、ずっと岩井は見下ろしている。観察するような目に屈託が見えるのは気のせいだろうか。
苦痛にうめく表情や嗚咽、気をやったときの顔、よだれを垂らして快感に打ち震える顔、寝顔など、あらゆる表情を岩井は知っている。生理現象の行為も映像に納められた。何度下品な行為を強要されても慣れることはない。当初からの恥じらいも薄れることはない。ないが、見られる快感が芽生え始めていたのは、隠しようもなかった。性器を広げられて、ばれてしまう。それがひどく恥ずかしい。
肉棒で絶え間なく粘膜をめくり返され、口を閉じることもできない。恥じらいながらも真正面にある岩井の鼻に、口に荒い息を吐き続けた。岩井の視線は喘ぎを漏らす唇にある。逃げ場のない羞恥心がMの世界へ誘う。迫り来る閃光に体を戦慄かせながら。
初めて犯された日から常に唇もターゲットだった。あごをつかんで閉じられないようにして、口の中を念入りに確認する。セックスの時のディープキスは長時間にも及ぶ。なぜか今日は一度も唇を吸われていない。
お互いの陰毛がこすられるごと、奈津子の唾液で岩井の鼻が濡れる。鼻で口で奈津子の呼吸を感じている。荒い呼吸をする以外何もできない。太い指が髪に潜る。腰の動きが大きくなり、セックスが変化した。
肉のこすれる水音は濡れ具合で変化する。夥しい量の体液が練り込まれ、泡だったヌメリがペニスや睾丸、陰毛、胯間に、たっぷりとこびりついているはずだ。ペニスが太いせいか、摩擦での泡立ちは細かい。
逞しい腕の中でもっと乱れ狂いたい。
「はふん、うふん」
甘えた声をあげるごと、涙がのどに流れてくる。