「淫らにひらく時」-10
「どうですか?簡単で申し訳ないけど、こんな感じでいかがですか?」
縄に縛られて小首を傾げた女が一点の明かりの中に座っていた。
白く塗り残された肌に骨格と縄の影。
乳首は黒く艶を帯びていて、その質感が濃淡でくっきり表されている。
顔は私のようで、他の女のようでもあった。母のようにも見える。
「素敵だわ。こんな短時間で美人に描いてくれて・・・」
「モデルを使った場合は時間が勝負なんですよ。緊縛は体力を削ぎますし、どうしたって態勢も崩れます。表情も変わります。」
最後にスプレーをかけて彼は絵を仕上げた。木炭は剥がれてしまうので糊で固めるんだそうだ。
「よければどうぞ、差し上げますよ。」
「持って帰れるわけないじゃない。」
彼はイーゼルにそれを掛けると私の縄を解き始めた。
「ねえ・・・しないの?」
彼は一瞬、その手を止める。後ろ手に縛られた絞めつけがふわりと弛んだ。
「僕に言わせればですが、SMは性交を必ずしも伴わないものです。まあ、人それぞれですけどね。」
「縛るのが好きなの?」
「キライとは言えません。無論、セックスも。だが、僕は描くために縛るのです。」
「ちょっと、いたぶられてみたいなあ。イヤラシイ女は嫌い?」
少しイライラしてしまった。もどかしさが官能的にじんとくる。
よく言葉にトゲがあるという言い方があるけど、まさにそんな感じの言葉だった。
頭に血が上るというよりも、むしろ子宮に血が下がる思いがした。
ふたつに分断された乳首を後ろからツマミあげられる。その刺激は甘く腰を躍らせた。
「あぁっ・・絵の中で犯されてる女には・・いったい何があったの?」
「どの絵ですか?」
「うん・・どれかな・・たくさんあった・・・」
「あれは受注に沿ったまでですよ。小説が発行される前に挿絵は描き上げなければならないですからね。」
男たちが覗き込む中で縛られて浣腸されてる女の身の上を私はぜひ知りたい。
股縄を解かれると手首は自由になった。
アソコの割れ目からお尻の割れ目にかけて絞め上げられた感覚から解放された瞬間は体の重みを感じた。
縛られてみたい願望は本当に長く持っていたけど、実感として覚えた感覚はそれが一番強かった。
「手はどうしますか?やはり自由にしておいた方がいいですか?」
「縛って。縛られてるって感覚が欲しい気がする。」
股縄がなくなると、なんだか腑抜けた感じがする。
「亀甲縛り」という縛り方は体をすっぽりと絞め込んでいて、矯正下着を着けてるような感覚に似ていた。
ところが、何気ない縄一本が大きな支えの役を務めている。それって、何かに似ていると思えた。