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イノセント・ラブドール
【SM 官能小説】

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イノセント・ラブドール-11


………


 実はあの瞬間、私がどうなったのか憶えていない。私はまるで彼の声に操られるようにあの
街の、《あの場所》に出かけた。高校を卒業してからあの街を訪れることは一度もなかったと
いうのに、その場所の風景はまるで私をずっと待っていたように私の心とからだをゆるやかに
包み込んだ。

 
電話の相手の名前は、園村リョウ…。


私は彼のことをはっきりと憶えていた。高校時代の彼はやや小柄だったが、ウエーブのかかっ
た赤味のある髪を伸ばし黒縁の眼鏡をかけ、どこか凛々しい憂いを湛えたまなざしは謎めいた
ものを私に感じさせた記憶がある。

電話をしてきた彼がその場所にあらわれるはずだった。しかしいつまで待っても彼はあらわれ
なかった。私はずっと彼を待ち続けた。いや、私は彼を待たなければならなかった。それが彼
の命令だったから。時間がたつにつれ懐かしく澄み切った夏空はいつのまにか陰鬱に翳り、厚
い雲に覆われた。


そして、突然、鳴り響いた雷鳴と空を切り裂いた苛烈な光が私を襲った…。


鋼鉄の剣のような閃光は私のからだの隅々まで包み込み、手足をもぎとるように身体を拘束し、
私の意識を奪った。

その瞬間、耳の奥で彼の笑い声が木霊のように聞こえた。

それが現実だったのか夢だったのかは定かでない。目を開けたとき私は全裸で白い花に囲まれ
るように横たわっていた。身体は確かに私なのに、なぜか《今のわたし以上に自分の心とから
だ》を感じた。

煌びやかな光にまぶされた私のからだは、白い花の中で芳醇に成熟していくような感覚に充た
されていった。どこからか聞こえてくる微かな羽の音…。私の目の前に揺らいでいるのは蜜蜂
だった。甘美な酩酊を感じさせる羽の音だけが私のからだの突起と窪みをくすぐるように愛撫
していた。

私は長く深々とした息を吸った。たっぷりと過ぎていく夏の匂いを孕んだ時間…。


不意に蜜蜂の羽の音が途絶え、私の目の前に現れたのはひとりの男だった。彼は私が待ち続け
た男…園村リョウだった。

白い亡霊のように全裸で佇む彼は、憑かれたように謎めいた瞳で私をじっと見ていた。私に
注がれる視線は何か呪文のように彼の感傷を語り、重くなり、熱くなり、それはまるで太陽の
光のように眩しく、やがて私のからだをじりじり灼き、溶かし、硬くしていく。


身動きができなかった…私は自分が彼のラブドールとなったことを初めて意識した。私の心と
からだはわたし自身のものとしてラブドールに封じ込められていたのだ。

彼は変幻した私の裸の姿態を隅々まで覗き込み、満足したように冷酷な笑みを浮かべた。異様
に蒼ざめた瞳には狂気を含んだ純潔が漂っていた。そして幻視者とも呼べる彼の瞳の中に燦然
と散りばめられた光が澄み切った、淫蕩な欲望を確かに溜めていた。


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