第10話『進路相談』-3
【A2番】、【A3番】の傍らでは、【A1番】と【A5番】の2人が山積みされたパンフレットを挟んでお喋りしていた。
「こんなに募集しちゃってさ……もう進路選択の季節なんだって考えると、一年なんてあっという間だね」
「そうですねぇ。 あたしは初めてのAグループだから、ドキドキしてます」
「ドキドキねぇ……ないな、そういうのは。 またきたかーって感じだけかな」
「流石アコさんです……あたしいつも思うんですけど、経験よりも度胸ですよね、大切なのは。 あたしもアコさんみたいにどっしり構えられたらいいなって、最近よく思います」
「私なんて5回目だから、アイの新鮮さが羨ましいよ……って、やめやめ。 愚痴はなし」
肩を竦める【A5番】。 ちなみに【A5番】のあだ名は『アコ』で、【A1番】は『アイ』だったりする。
「アコさんはどちらにお勤めするか、心積もりをお持ちですか?」
「ん〜? 私? 教えてあげてもいいけど、先にアイから話してよ」
「あたし……えと、あたしはその……えへへ、生意気にも『研究職』につきたいな、なんて思ってます」
急に声が小さくなり、俯き加減な上目遣いになる【A1番】。 彼女自身、自分が喋っている意味を分かっている証拠だ。 研究職につくには、学園を卒業して大学に進学し、大学卒業後は学院に入り、学院を出てからの就職になる。 『学院卒』となれば必然的に『Aランク社会人』にカテゴライズされるわけで、それは超の上に超がつき、そのまた上に超がつくスーパーエリートだ。 そもそも『研究職』は、牝だけで張り合っていればいい職場ではない。 寧ろ牝よりは殿方の比率の方が高い職場で、つまり殿方と同僚になるという、とんでもない難関職だ。 そんな職に牝がつける可能性を単純に数値化するならば、1ミリパーセントどころか1マイクロパーセントのレベルになろう。
「へ、変ですよね……いまだにこんなこと考えてるなんて。 寮監先生からは、現実を見ろって叱られちゃうんですけど、可能性がゼロでないなら、もう少し頑張ってみようかな、少なくともいけるとこまでいってみよう、なんて……おかしいですよね、あたし」
「ん〜〜ちょっと意外だったけど……」
少し間をおいてから、
「いいんじゃないかな。 すっごく大変なのは分かってるみたいだし……嫌いじゃないよ、諦めない子って」
ニッコリ微笑み、【A5番】は答えた。
「同期から『研究職』が出た、なんてことになったらスゴイと思う。 私まで天狗になっちゃいそう。 私はアイちゃんと一緒の寮で、色々教えてあげたんだぞ、なんちゃって」
「や、か、からかわないでくださいっ」
目をパチクリさせる【A1番】。
「あっ、そうだ! せっかくだから今のうちにサインもらった方がいいよね。 牝研究職第一号より『2G62ER339』さんへ……なんちゃって、ふふっ」
「もうっ、止めてください!」
「ごめんごめん、アイちゃんってば可愛いなぁ。 子供みたい」
そういうと【A5番】はプッと膨らませた【A1番】の頬っぺたをつついた。
「あのっ、あたしは正直に話しました。 次はアコさんの番ですっ」
本気で怒っているのか、照れているのか、【A1番】が膨らんだ頬っぺたを赤くして詰め寄る。
「私なんて聞いてもしょうがないと思うけど……ま、いいか。 私はここに決めてるんだ」
【A5番】はパンフレットの束から1枚を抜き取った。 そこには『国軍補充兵・追加募集』の見出し。