内通者-12
「いなぎ東署は田口事件において極めて重要な役割を果たした。しかし評価を受けたのは対策本部がおかれた中央署だった。私はそれが許せなかった。なら有無を言わせぬ実績を作り最大なる評価を得る署にしようと心に決めた。それが始まりだった。」
いなぎ東署の署長、金城徳弘は奥歯を噛み締めながらそう言った。
「東署がつるんだのは暴力団?それともサーガ?」
「我々はずっと番条組と組んでやって来た。しかし最近は番条組が用意出来る量が減って来た。そんな時、番条組からあるブローカーを紹介された。紹介されたと言っても会った事はない。電話やメールでのやり取りでそのブローカーから覚醒剤、麻薬を仕入れていた。」
「調達資金は?」
「…レイプ事件を揉み消す事を条件に容疑者に金を要求していた。いなぎ市は震災の補助金が出ている。1千万ぐらいならすぐに払える奴らばかりだ。そこに着目し、時にはいなぎ市で補助金を得ている者を狙い覚醒剤を売り、時にはレイプを誘発させて逮捕し、事件揉み消し代をふんだくる、その繰り返しだった。」
「最低ですね。」
その言葉に金城は激昂した。
「おまえらが田口事件の時に手柄を独り占めしたからいけないんだろうが!!」
そう言って睨みつける金城を冷たく見つめる渚。
「周りから見れば中央署は評価されたのかも知れない。しかしあの事件でいなぎ市においての捜査で1番功績を上げたのは上原さん。その上原さんと協力していなぎ市の各署は捜査してた訳だけど、知ってますか?他所モンの女刑事に好き勝手やられて次々に事実を暴いていく傍、いなぎ市の警察は一体何をしてるんだと激しく福島県警から叱責があったのを。上原さんがいなければおまえらは無能かと散々罵られたわ?対策本部が置かれた中央署は特にそう。いなぎ市の各署への批判を全て追ったのよ。あの時受けた評価なんて世間体を気にしたただのパフォーマンスよ。ある意味その評価は中央署にとって史上最大の屈辱。以降中央署はその屈辱を忘れずずっと努力して来た。功績を上げ続ける東署に敬意を払いながら、負けじと努力して来た。この街から犯罪がなくなるよう、覚醒剤がなくなるよう、そんないなぎ市を目指して日々精進してきたわ。それがどうよ?あなた達は。覚醒剤撲滅どころか犯罪を活性化してたんじゃないのよっ!?違う!?」
それが許せなかった渚は一気に感情が高ぶる。
「…女のくせに偉そうに…。うちの吉田のように女は大人しく男の後ろで大人しくしてればいいんだ。」
「あなた達、吉田洋子刑事に散々酷いことしてたそうね。輪姦わされて写真撮られて脅されてたと証言したわよ?」
「くっ、あの馬鹿!簡単に口を割りやがって!最近下の口がガバガバになって来たから上の口もユルユルになったんだな。」
いやらしい笑みを浮かべてそう言った金城に、渚は我慢の限界が来た。
「このクソ野朗!あんたはそこらのレイプ犯と変わらない!フザケンナこの野郎!!」
渚は立ち上がり金城の頭を掴むと激しく机に叩きつけつけた。
「グワァ!!」
鼻血か…、机に鮮血が広がる。
「南山さん、ダメです!落ちついて!!」
慌てて同席していた刑事に取り押さえられた。
「な、何するんだ!怪我人を病院にも連れて行かず、しかも取調べで暴力だと!訴えてやるぞ!?」
「誰に訴えるっ!?…てかさー、今まで容疑者、被害者の訴えを全て揉み消して来たあんたらだもん、世に届かぬ訴えがあるって一番良く知ってるじゃない?」
「…」
渚は襟を正し凛とした姿で言った。
「東署は閉鎖よ?不祥事で署を閉鎖するなんて前代未聞。責任は重いわよ?相当ね…。覚悟しなさい…。」
渚はそう言って静かに取調室を出て行ったのであった。