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「夏の出来事 5」
【若奥さん 官能小説】

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お願い-1

4月になり、1週間経った。

タクミは言っていた通り
専門学校の入学式には欠席した。

今は電車で、新宿の専門学校へ
片道30分かけて通学している。

いつものように過ごす
ちづるとの時間は
ほとんどが
専門学校の話題になっていた。

その日の夕方も、
ちづるは台所に立ちながら
ソファーに座っているタクミに
学校の話を色々質問していた。

だが、その日のタクミの様子は
おかしかった。

ちづるはいつものように
学校の話を聞こうと質問するが、
「ん?」
「もっかい、言って」
と、何度も聞き返してくる。

上の空で
そして不機嫌でいるように
ちづるからは見えた。

ちづるは、出来上がった料理を
ソファーの前のテーブルに
運んでゆく。

ソファーに座っているタクミが
テレビを観ながら呟く。

「なんかーー、、、
   落ち着かない。 」


「 ぇ? 」


「この部屋。」


「 ぁ、。 、、 、」



ちづるは
部屋をぐるりと見渡す。

ちづるの家の家具や雑貨が
必要最低限なもののみに、
なっていた。

ソファーの後ろの方にあった
小さな本棚もなくなっている。

食器棚も、棚はあるが
中身の食器は使う分の
数枚だけになっている。

グレーのシャツを着ているタクミは
ぼんやりとテレビを眺めている。

淡いピンク色のカーディガンを
着ているちづるは
タクミの隣に座る。

テレビを見ているタクミを
横から1度見る。

少しだけ気まずい気持ちになり、
ちづるもテレビを眺めてから
話し始める。


「お兄ちゃんに、、
 色々、手伝ってもらってて。
 冷蔵庫とかはもちろん、
  業者さんに頼むけど、、、。」



「、、、、、。」



「あの、、。ちょっと
      いいかな? 」


「んーーー? 」


「お願いが、、あるの。」


「、、、、。」


タクミは、
ちづるにそう言われても
テレビの方を向いたままだった。
ちづるが言う。


「あの、 ね?
 もうすぐ、、引っ越す 
     わけですが、、、」


「、、、、、。」



「うちの、、食器棚
 、、、。 
  タクミ君のうちに、、。
 置いてもらっちゃ、駄目かな?」



「、、、、、。」



「うちのやつ、、ほら 
 炊飯器も、置けるから、、。
  結構、コンパクトだし。 」


「、、、、、。」


「他も、食器、、とか。」


「、、、、、。」



「 ぁ、。 もちろん、
 タクミ君が
 迷惑じゃなければ、、の話で。
 タクミ君のお母さんも、、
帰ってくる時、あるだろうし、、
 聞いてからのが、、いいよね。
 、、、。
 私は出来たら
  泊めてもらった時とか、、。
 今みたく、ご飯とか
    作りたいな、、って  」



「、、、、、。」



「、、、。 まぁ、うん、、
     考えといて ? 」


「、、、、、。」




タクミは黙って
ちづるの話を聞いていたが、
1度も振り向かない。

ちづるは
スカートの膝の上にある
自分の手を気まずそうに動かす。

しばらく沈黙した後に
出来上がった残りの料理を
運ぼうかと考える。

その時。
タクミは
ちづるを見ないまま呟く。


「 あのさぁ 、 」 


「 ん? 」


「俺も、、。
 お願い、あるんだけど。」


「、、うん、 なぁに? 」


ちづるは
タクミがやっと口を開いてくれて
気持ちがパッと明るくなった。

タクミは、静かに言う。


「行かないでよ。」


「、 ぇ? 」


「俺んち、泊まりにくるなら、、
   居てよ。 ずっと。  」


「 ! 、 、、、 」


タクミは振り向いて
ちづるを見た。

その目を見て
ちづるはやっと気がつく。

タクミは上の空ではなかった。

不機嫌ではなかった。

タクミの寂しさが
ちづるの身体に流れこんでくる。



「 俺、、やっぱ、、
 嫌なんだよね。
 ちづちゃん、居なくなるの 」


「 、、っ 、、
 でも、、ね? 
 うちの実家、ここから凄く
「遠い。」



      、、、 ぇ?  」



「今まで、、。
どんだけ近くに、居たと思うの?」


「、、、、、。」


「俺と、暮らしてよ。」


「! 、 、、、」




2人は、見つめあったまま沈黙した。


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