勘違い女にお仕置きを!-3
「ぎゃあ、痛い痛いー!」
まさか特別な存在の自分がこんなことをされるとは、江梨子は夢にも思っていなかった。
「お前、誰に何やってるのかわかってんのかよ!江梨子を離せよ!」
里美が勝也の腕を取って止めに入った。しかし、勝也は難なく里美を引き剥がして突飛ばすと、さらに激しく江梨子の頭を揺さぶった。
「誰に何をだって?自意識過剰のバカ女にお仕置きしてんだろうが!オラオラオラ!」
「ぎゃあ、痛いよー!痛いよー!」
「お、お前、後悔するよ。あたし達、直ぐそこでコータ先輩と待ち合わせしてるんだよ」
突き飛ばされた里美は尻餅をつき、下着が丸出しになっていることにも気づかずに、それを口にして凄んだ。
「コータあ?」
里美からその名前が出たことで、勝也は江梨子の頭を揺さぶるのを止めて里美を見つめた。
「おっ…」
勝也は里美の下着が丸見えなことに気づき、無意識の内に江梨子の髪から手を離していた。
「あ、あたしがスマホで呼べば、直ぐに来てくれるんだからね」
里美は勝也を睨みながら、手にしたままの携帯端末の操作を始めた。
地元でのコータの悪評は大人でも知っている。その名を聞いた目の前の男が、江梨子の髪を離し、目を見開いて動揺していると思った里美は、さらに畳み掛けた。
「コータ先輩に言ったら、お前マジヤバイからね」
2人が自分を特別な存在だと思っていたのは、そのコータと知り合いだったからだ。
「里美、早くコータ先輩呼んで…」
髪を離された江梨子は、慌てて勝也から距離を置くと、涙を浮かべて弱々しく里美に頼んだ。
「わかってる。今、コールしてるよ」
それを聞いた途端、江梨子の目に強さが戻った。
「このクソが!いくら謝っても赦さねーからな。コータ先輩に言って、一生後悔させてやんよ」
コールを待つ間、痛む頭を擦りながら江梨子が凄んだ。
「取り合えずの慰謝料として100万は貰うからな」
コータの名前を使って、ここしばらく実入りの良かった江梨子は吹っ掛けた。
「あっ、コータ先輩ですか?里美です……そっちに行く途中で、変なおっさんに絡まれて…」
「コータ先輩はあたし達のためだったら、何でもしてくれんだよ。お前なんかギッタギッタにシメてやんよ」
里美の話の内容に耳を傾けながら、強気になった江梨子が捲し立てた。
「…えっ?あっ、はい、こいつと代わるんですね…」
通話の途中に、チラチラと勝也を見ていた里美が立ち上がり、携帯端末を勝也に差し出した。
「ほら、コータ先輩がお前に代われってよ」
自分の携帯端末が触られるのが嫌なのか、勝也がそれを手にした時に里美は嫌な顔をした。
「おい!あたしのスマホ、お前の脂ぎった顔にぜってーに付けるなよ!」
里美の言葉を無視して、勝也は携帯端末に頬をベットリと付けた。
「あーっ!てめー、ふざけやがって!」
里美の罵声を気にせず、勝也は携帯端末の向こうの相手に口を開いた。
「お前がコータか?」
呼び捨てにされたコータは、それだけでぶちギレた。
『あん?てめー誰だ?てか、誰に向かって言ってんだ、オラー!』
その携帯端末から漏れ聞こえるドスの効いた声は、江梨子と里美の耳にも届いた。