美しい知能犯-8
その夜、マギーはオナニーする事も忘れ自分の中で葛藤した。植田卓郎や柳沢、沢口への憎悪と刑事としての正義の狭間で苦しむマギー。明日の事など忘れマギーはずっと葛藤を繰り返した。
「加奈…、私はどうしたらいいんだろう…。加奈はきっとあなたは刑事でしょって言うんだろうね…。そう、きっと奴を殺したとしてもきっと憎しみは消える事はないし、なにより加奈は帰って来ない。奴らの命を奪って罪を償わせるか…、それとも生かして罪を償わせるか…。」
しかしマギーはある事を思い出した。東京刑務所を訪れた際、密かにそこに収監されている柳沢と沢口の様子について看守に聞いた。その内容から罪を反省している様子は感じられなかった。奴はら全く反省していない…、マギーはそう確信した。その時点では2人が出所し次第、殺す事を考えていた。しかし直後の爆発から現在に至るまで若菜と行動を共にして刑事としての正義を全うすると言う気持ちに傾いて来た。彼らは許せないが、マギーにとって若菜は憧れの存在である。その若菜な犯罪に対する姿勢を学んで行き、若菜が千城に戻った時には馬鹿な考えは止めよう…、そう思い始めていた。しかしずっと置い続けていた植田卓郎の居場所を知る人物が現れた。自分が白川歩美に連絡すればもう手の届く所に居る。加奈への思いが蘇り胸がいっぱいになる程に植田卓郎への憎悪の炎も再燃して来る。
「殺したい…、3人とも…。でも…」
マギーは目を閉じて髪の毛を掻きむしる。自分でもどうしていいか分からない。今は正義を説く若菜だって実際は復讐に燃え憎き相手を殺害した。その過ちを認め自分を間違った道に走らぬよう常に気をかけてくれているのは十分理解出来る。頭の中が混乱しているマギーは、復讐を遂げたからこそ若菜はそう言えるのだとも思えてしまう。分からない、どうしていいか全く分からなかった。
時計は見なかったが、もう寝る時間は少ないと感じた頃、ふと眠りについた。そして夢の中に加奈が出て来る。
「マギー…」
「加奈…」
妖精のような笑みを浮かべる加奈が眩しい。妖精のまま生き、幸せな人生を歩み、そして妖精のように命を全うすべきであった少女をマギーはじっと見つめる。
「マギー?あなたは…」
夢の中の加奈はマギーにある言葉を語りかけた。マギーの頬に一筋の涙が伝う。マギーは悲しみに包まれる中、一生懸命に笑顔を繕い加奈に言った。
「分かったよ、加奈…。ありがとう。あなたはいつまでも親友…。大好きだよ、加奈…。」
マギーの目はゆっくりと開いて行く。もう加奈は消えていた。加奈はマギーの心の中に帰って行ったのであった。