鏡 〜渇望〜-2
「ッ…クソッ」
彼が小さく呟いた。
…ヌプッ…彼のモノが引き抜かれる。と、同時に私の口を塞いでいた紅い縄が乱暴に外され押し込められていた布切れが摘み出され打ち捨てられた。
「ナオ！」
彼の怒鳴る声に目を開く。
髪を掴まれ顔が上がる。
ズッ…口の中に彼のモノが押し込められる。私の蜜まみれの彼のモノ…。牝の匂いにむせかえりそうになる。
彼は、そんな私のことなどお構いなしに髪を掴んだまま激しく私の口の中を抉る。
ズチュ…ズチュ…ズチュ…
ただひたすらに口の中を犯してゆく。
（…いつものこと、いつものこと…）
呪文のように自分に言い聞かせる私…。
（私はこの人に愛されていない）
一番考えたくないことが頭の中に沸き上がる。目の端に鏡の中の女が映った。
鏡の中の女は勝ち誇ったような顔で私を睨むと
『まだわかってないの？とんだおバカさん！あなたは愛されてないの。愛されてないの！彼にだけじゃないわ、いつだって、誰にだって…あなたは愛されてないの！』
真っ赤な口を大きく開けると笑いだした。鏡の女の笑いは止まらない。
『おバカさん！おバカさん！』
そう言いながら笑い続ける。おかしくて堪らないといった顔で笑い続ける。
ツン…私の鼻の奥に熱いものがこみ上げ、目の前が滲む。涙が今にもこぼれて落ちてしまいそうだ。
「くっ…うぅぅっ！」
その瞬間喉の奥で何かが弾け、口の中が熱いもので充たされてゆく。
彼のモノがその力を失い、小さくなってゆくまで私は口を放すことは無かった。
そうしておかないと嗚咽を漏らすのを防ぐことが出来なかったから…。
彼が私を縛るようになってから、私は前のような幸せに身を震わせるようなセックスをすることは無くなった。
物理的にイケることはあっても、前のように幸福感で目の前が真っ白になれる絶頂を迎えることは無かった。
彼の優しさを少しでも感じることが出来るのは、むしろ全てが終わった後で、彼の指が私にかけられた紅い縄をゆっくり解いてゆく時だった。私の乳房や太股に刻み込まれた縄の跡を彼は愛おしそうに撫でさすりながら体中に口づける。その瞬間の為に私は長く辛い陵辱の時間を耐えていた。
「ママ…抱っこして」
「ママ…頭なでなでして」
孤独で寂しい夜をなんとかやりすごした幼い私が、明け方に帰った母によく頼んだ言葉だ。
「う〜ん、明日ね、明日。ママが起っきしてから…」
母はいつもそう言うと、酒の匂いを部屋中に充満させて眠りにつく。
一人取り残された私は、小さな手を大きく広げると自らを抱きしめる。
「菜緒ちゃん、いい子いい子ねぇ、おりこうさんねぇ。」
大好きなお姉さんたちがいつも言ってくれる言葉を呟きながら自らを抱きしめる。そうしながら母の暖かさを少しでも感じられるように母の背中に小さな体をピッタリと張り付けて、また眠りについていったものだった。
「ママ…」
真っ暗な部屋で、私は目が覚めた。
夢を見ていたのだろうか？…自分の口からこぼれた言葉に目を覚ましたようだ。
横を見ると彼が眠っていた。
スー、スーと規則正しい寝息が聞こえて、私はホッと胸をなでおろす。