卒業-5
タクミは立ち上がり
台所のコンロの前にいるちづるの
背後に立つ。
料理の中身を見に来たと思い
ちづるは
タクミの顔を見上げて微笑み、
鍋の蓋を開けようとする。
しかし
その動作と同時にタクミが呟く。
「ごめん。 俺 、 、」
「 ? 」
「それ、食べれないかも。」
「 ぇっ? ? 」
「 あの さ、、 俺 」
ちゃんとした大人だよ
ちづちゃんは
「 俺 さぁ。
ちょっと、、。
お腹、痛くて。 」
でも 俺
ちづちゃんに
ちゃんとした大人を
望んだ事なんて
1度だって
ないよ
「 え? お腹? 」
「うん。 、、だから、」
「 ? 」
「今日は、、ちょっと
帰るよ、、。」
「 ぇ? 」
「せっかく、、作ってくれたのに
ゴメンね? 」
「 ぁ ううん、、それは
平気だけど、、。
大丈夫? ぁ 薬 っ
うちにあるかも 」
「 ぁーー、、いいよ。
そんな たいした事ないから 」
「、 、でも 」
「 ふふっ ちづちゃん 」
タクミは両手で、
ちづるの両手の平を持つ。
微笑んでちづるの目を見つめる。
タクミが言う。
「いつもー、、ご飯とか、
ありがとうね。
あ、治ったらさぁ。
ちゃんと、食べるから、、。」
「 ん うん、、。」
「キスして、いーい?」
「 ぇ? ぁ、、、 うん 」
ちづるは少し照れて微笑み、
タクミがちづるに顔を近づける。
いつもと同じ、タクミの笑顔。
しかし何かをためらうように
タクミの動きがピタリと止まる。
タクミの目の奥が一瞬だけ
辛そうだった。
そして、わずかに
震えたような気がした。
「 ? 」
タクミ君?
「、 っ ぁーー、、
やっぱ、、、 うん
やめとく 。 」
「 ぇ?」
「風邪だったら、、
移したくないし〜。」
「 ぇ? 、、。
でも、 、
お腹痛い だけなら、、 」
「、、、。 また ね。」
「 ぁ 、、、、ぅん。 」
タクミはそう言うと
静かにちづるから離れる。
もらったキーケースを
学生鞄に入れ、
タクミは出ていった。