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《見えない鎖》
【鬼畜 官能小説】

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〈蜉蝣の飛翔〉-7

(お母さん…ッ!)


自転車に乗った母・貴子が“予定通り”に帰宅してきた。
再婚して社長夫人の座を手にした貴子は、休日出勤以外は灰色の作業着ではなく、白いYシャツと黒いスカートで働いている。
前職の事務員で培った経験を活かし、事務的な仕事を任されていたのだった。


『お帰り花恋、今日は遅かったのね?』

「うん。ちょっとね……」


自宅の敷地に入ると、車庫のシャッターは閉まっていた。
あの兄弟が自宅に居るのは間違いない。
花恋は思わず身震いしたが、それでも表情だけは変えなかった。


『お父さんね、花恋の行きたい大学に行かせてあげるって。国立でも何処でもって言ってくれたわよ?』

「す、凄いな……じゃあ勉強頑張んなきゃ」


[花恋を大学に行かせてあげたい]……再婚前に光司と貴子が結んだ約束は、より貴子の願いを汲んだものへと変わっていた。

学校の成績も優秀な花恋は、しかし、実のところは進学を諦めていた。
前述した「早く働いてお金を稼ぎ、母親を少しでも楽にさせたい」の言葉は、健気な娘の素直な思いであり、一方の母親の願い事は、それは生活を一変させられなければ手が届かない〈未来〉であった。


その未来は、母・貴子の“力”によって変わった。


前の職場で、偶然にも仕事の打ち合わせで訪問した光司に、貴子がお茶を出した事が切っ掛けで、全てが好転していった。

花恋の美貌は貴子から引き継いだものであり、その美しさは妻に先立たれた光司の胸に熱く焼き付いた。

互いに自分の時間は無いに等しく、それでも二人の情熱は冷めるどころか深まるばかりだった。


そして貴子の方から結婚を申し込み、二人はめでたく再婚の運びとなる……。



貴子は光司の生真面目で不器用で、優しい人柄に惚れた。
勿論、工場を二つも持つ会社の社長という肩書きも、やはり大きかった。

そこは強か(したたか)な女性である。
しかし、それを誰が責められよう?

光司と貴子の想いは確たるものがあるのだし、経済力も男性の魅力のうちの一つだという事を、否定する者はいないはずだ……。



『あ、でも国立が目標じゃないからね?花恋が行きたい大学って話だから』

「分かってる!分かってるわよ」


嬉しそうに浮かれる母親を見て、花恋は胸が痛くなった。
そして涙がジワリと滲むのを感じてもいた。


(やっぱり…やっぱり言えないよ…ッ…言えないよッ!)


母親の思い描く未来は、叶わないと諦めていた娘の能力の開花の、その礎となる學舎(まなびや)への入学である。
その夢が現実のものになるという“今”が、本当に嬉しくて堪らないのだ。



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