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《見えない鎖》
【鬼畜 官能小説】

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〈蜉蝣の飛翔〉-6

(この川って、こんなに小さかったっけ……)


まだ小学生だったあの日、もっと大きく感じていた川は、今になって見ると随分と小さく、そして細かった。
無数に群れていたはずの蜉蝣の数も、やはりあの頃と違って少なく感じていた。

そしてまだ幼かった花恋は、自然の摂理の残酷さを恐いとは思ったが、あの蜉蝣達を可哀想とは思わなかった。

だが今は、可哀想だと素直に思える。
本当に哀れだと感じている。


命懸けで捕食者の犇めく川面で羽化して亜成虫となり、葦などの葉裏でもう一度羽化して成虫となった蜉蝣は、その短すぎる〈間〉に交尾する相手を見つけ、産卵の為に再び川面を目指す。


卵を抱えた蜉蝣には、ウグイやオイカワの姿が見えていないのだろうか?
フワリと舞ってスゥッと下りて産卵しようとする刹那、その殆んどは襲われて食べられてしまう。
水面に落ちて藻掻くように産卵する者もいるが、やはり捕食者は容赦なく襲い掛かる。

成長して手に入れた“羽”は自由を握る為のものではなく、自己犠牲を是とした命のリレーを成功させる為のもの。
盲目的な命の燃焼は《儚い》の一言であり、人間のセンチメンタルな感情など入り込める余地などない。


しかし、花恋は蜉蝣に自分を見た。
淡い体色は清純無垢な素肌のように美しく、その細くてか弱い体は可憐な少女を思わせた。


角もない。
爪もない。
硬い殻もない。


何一つとして我が身を守る術を持たない蜉蝣は、一点の曇りもない願いだけを胸に抱え、危険を承知で川面に下りていく。


それは危険を承知で《我が家》に帰る、今の自分そのものじゃないか。


(そっちは駄目よ……た、食べられちゃうの……食べられちゃうのよ!)


途切れ途切れに聞こえる捕食の音と、浮かんでは消える波紋……夕闇が迫っても止まない喧騒は、花恋を思い出の世界から現実の世界へと連れ戻す……花恋は賑やかな川面に背を向けて、恐ろしい我が家へと進み出した……。




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