ド-5
「しおり、は・・・寝ていいっていうのに毎日起きて待っててくれたんだ」
知らないオンナの話を聞いている気がする。
「だから、帰るコールをしていたんだけど」
知らない二人の時間に嫉妬する。
「池田は、寝てていいんだよ。俺毎日遅いから」
私のことを旧姓で呼ぶ。
この他人行儀に悲しくなる。
確かに、しおり、と呼ばれてもしっくりこないんだけど。
それでもほかのオンナの自慢をされているようで
苦しくなる。
「池田、ご飯は?まだ食べてないのか?」
「待ってました」
「そうか。悪かった。一緒に食べよう」
ありがとう、じゃなくて
いつも主任は私に謝る。
それは主任にとって他人が待っていたかのように。
「美味い。味付けは変わらないんだな」
嬉しそうに、きれいな箸使いでご飯をどんどん食べる。
「少し飲むか?」
と出されたワイングラスはペアのもので。
私が使っていいのか一瞬迷った。
このグラスは、ラブラブな主任と私を知ってる。
私はこの人と一体どんな5年間を過ごしてきたのか。
私の適量を知っているかのように
グラスに半分だけ注いだ赤ワインは
私の好きな味だった。