幼稚園の朝-7
「あなた、また中性脂肪が増えたんじゃない?そのお腹。この前の健康診断でひっかかったんだから、飲んでいる場合じゃないのよ」
台所で食器洗いを終えた由香がダイニングテーブルに戻ってきた。
夫はテレビを見たまま聞こえないふりをしている。
由香はテーブルの反対側に座り夫に話しかけた。
「今朝ね、幼稚園に楓を送って行った時に、亜美ちゃんのママと会ったのよ。それからお洒落な喫茶店に行ってお話したの。瑠美子さんっていう名前なんだけど、すごくきれいな人なのよ」
「ふうん。喫茶店?幼稚園の近くにあったっけ?」
「瑠美子さんのクルマで行ったの。外車なのよ!去年買った新車よ。ウチの“シロ”なんて中古でしょ。言えなかったわよ、瑠美子さんに」
“シロ”とは、一家のクルマのことだ。
中古で買った白のミニバンである。
娘の楓が“シロ”というペットのようなニックネームを付けたのだが、その理由は顔が犬に似ているからだという。
由香も夫も、どこをどう見ても犬には見えなかったが、娘は犬だと言い張っていた。
小さな子どもにしか見えないモノがあるらしい。
「外車じゃなくたって、高速道路も走れるし荷物だって積めるし。なにより、あれはお買い得だった」
夫はちょっと面白くなさそうである。
「ねぇねぇ、瑠美子さんの旦那さんは公認会計士なんですって!大手の事務所に所属しているらしいわ。お給料だってスゴいはずよ」
「あのね、給料安くても死ぬわけじゃないの」
夫はだんだん、ふてくされたような表情に変わってきたが、由香は興奮気味にしゃべり続ける。