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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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 三件目。一週間経ずして新宿で爆発が起こった。死亡したのは妻子ある商社マンと違法風俗の外国人女性。これまでどおり二人の犠牲者。
 そうそう爆発を起こすほど、この国のガスインフラの安全性に問題があるわけではない。よって警察は即日この違法風俗を摘発して口封じをすると、漸く厳しい報道規制を敷いた。大手マスコミは素直に従ったし、小物ジャーナリストは誰も相手にすまいから放置しても問題なかった。横浜や江東区では近所の人間が地響きを聞いたのに、今回については歌舞伎町の喧騒の中、同ビルに居た客と風俗嬢が「地震か?」と思った程度だったから、世間から隠匿するには実に好都合だった。
 現場検証をすればするほど、爆発には「狙い」が定められているとしか思えなかった。一件目の男が暴力団幹部であることは掴んでいたし、検証結果は最初から一つの答えを導いていた。これを軽々と発表するだけの勇気ある決断を下せる者がいないだけだ。
 三件とも、爆発が起こったのはセックスの最中、標的は男性。そして爆発地点は――女性。事故ではない。三件とも殺人と断定されていた。
 性愛を交わしている間に爆発に見舞われるという、男ばかりの警察機構上層にとっては、得も言われぬ恐怖心を与えるこの事件の特命捜査班が、警視庁・県警合同で組織された。
 しかし捜査は難航していた。
 まずもってそんな手口を選ぶ意図が全く不明。したがって動機も解明不能。犯行声明の一つでも出してくれれば、その主張は何であれ、とにかく頭おかしい奴らがやらかしたんだ、とひとまずの安心が得られたのに、まるで得体がしれなかった。女性の側に殺意があったのか否かについても、もちろん彼女たち自身も命を散らしているのだから尋問することはできず、周辺を洗っても、そんな素振りは――我が身を爆ぜさせることによって男を殺傷しようと決意した素振りが一体どのようなものか、聞き込みに当たる捜査員には皆目想像がつかなかったが――見られなかった。
 仮に女性にその意志が無いならば、第三者が仕向けていることになる。どうやって? どれだけ現場検証をしようが、聞き込みをしようが出てくるはずはなかった。捜査を行うほどに謎が深まるばかりだった。
 かつ三組の間には何の関係性もなかった。三流雑誌の記者よろしく妄想逞しい捜査員が、爆死を奨励促進する闇サイトでもあるのではないかと考えてサイバー捜査係に調査を依頼したが、定常調査で洗い出しているブラックリストには見当たらないし、人員総出で改めてネット上を探し回っても、そんなサイトは見つからなかった。
 しかし、彼らの間の「接点」を知る者がいる。だからこそ、深雪と自分がこうして調査に当たっているのだ。そして先に来ていた二人組が動いているのも、別の人間からの、同じ理由からくる指示によるものだろう。
「公安でしょうか」
 陽介が言うと、
「に、決まってんじゃん」
 深雪はまた風にさらわれた髪を耳にかけ、もう一本火を点けて咥えていた煙草の煙に瞼を細めた。
 刑事警察ならば横の情報連携も不可能ではないが、一口に公安といっても様々な省庁に組織されており、それぞれがぞれぞれの命に従って隠密捜査を遂行しているのであるから、おいそれと接触して協働を誘いかけるわけにはいかなかった。
 公、すなわち国体の安全のため。
 特殊ではあるが、深雪も陽介も公安と言えば公安だ。公安が動くということは、御国の御歴々がこの事件に反体制の臭いを嗅ぎつけたからだ。飼い主は異なれど、お互い名乗るべき名はなく詐称し、そして犯人探しに暗躍している点では同じだった。
 四件目が起こり、双方の飼い主の蠢動が勢いを増している点でも。





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