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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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 頬を締め付けていたベルトが唐突に緩んだ。やはり背後にも人がいた。首の後ろで留められていた錠が外れると、香菜子はボールギャグをボロンと胸元へ落とした。
 閃光を浴びてよく見えなかった男の顔が近くまで来たために明瞭になった。気分を問うた男は思った以上に若く、自分と同年代と推測された。
 革のスリムパンツに上躯にピッタリとフィットしたシャツ。黒ずくめの細身の体は衣服の上からでも限界まで絞られていることが分かった。スポーツ選手としての目で見れば、理想的な筋肉の付き具合で羨ましくすらあったが、こうして対峙すると警戒心しか煽ってこない。
 一重の切れ長の目と薄い唇。一人の女を拘束し、大勢で取り囲むという卑劣な行為を働いているにも関わらず、男の表情は余裕に満ちて、これといった緊張も昂揚も見られなかった。リーダーと見て間違いない男の冷徹をこうもひしひしと感じたのは、彼とともに香菜子を囲みに集まってきた仲間たちが、貧弱に痩せた者も、不摂生に太った者も、皆一様にみすぼらしい体をしており、加えて身に一つだけ纏った褌に各々のペニスの形をはっきりと浮き立たせていて、あまりにも対照的だったからだ。
(色責めするつもり……、だよね)
 これだけの淫獣に囲まれても意外にも冷静だった。
 目出し帽を被っていても皆一様に穴から覗く目は充血しており、膝をパックリと割られた香菜子の肢体に舌舐めずりしている。
 香菜子には欲情している男たちが滑稽に見えて仕方がなかった。愛している男に優しく抱いてもらい、処女を捧げたばかりだ。陽介以外のどんな男に何をされても、下らないとしか思えない自信があった。
「……な、……何なんですか、これ……」
 香菜子は正面の男を、上目遣いに、怯えた表情で見上げた。もちろん芝居だ。意識を取り戻した吉岡真理子の第一声に相応しい。
「そんなことより、山井常務の部屋で何をしてたんです? 常務は終日不在ですよ?」
 欲情した獣たちは取るに足らないだろうが、この男だけは油断ならぬ相手のようだ。香菜子が気を失う前にどこを訪れていたか知っているらしい。潜入を果たしてから意識的に努めて多くの社員を憶えてきた。もちろん社員全員を知っているわけではないが、常務の動向を知っている立場にあり、ならば秘書課と縁遠い部門ではないはずだが、知らぬ顔だった。
 薄笑みを絶やさない男の表情は蛇を連想させる。一体何者だろう。
「いえ、じょ、常務に頼まれていた書類を……」
「書類、ね」
 男はパンツのポケットに両手を突っ込んで、軽い失笑を漏らした。「で? 目的の書類は見つかったんですか?」
「い、いえ、み、見つける前に、こ、こんな……」
 男の態度から見て、苦しい嘘だということはバレていそうだ。
 香菜子はもう一度腕に力を入れて身を捩らせてみた。手枷の革が擦れる鈍い音が聞こえるだけだった。
(ダメだ、全然動けない。……何とかチャンスを伺うしかないか)
 彼らが淫欲に任せて襲ってくれば、きっとどこかで隙が生まれるはずだ。香菜子は男たちの体の向こうに見える出口へ一瞬だけ目を向けた。重そうな扉は内鍵になっている。窓がないところを見ると、ここは地下だ。リーダーの男は手練だろうから、一対一ならともかく、ザコと共に相手にするには分が悪い。彼に構わず地上へ向かって逃亡するのが賢明だろう。自分が本気で走れば誰も追いついてこれまい。奪われたスカートは目に入る場所には無さそうだ。下肢丸出しの上、ヒールを脱ぎ捨てて駆ける姿は想像するだけで情けないが、致し方がない。
「ほ、解いて、ください」
「せっかく縛ったのに?」
 怯える女が涙目で懇願してやっているのに冷静なツッコみ。ヘビ夫め……、勝手なニックネームを付けた香菜子は、彼の心を揺さぶり、隙を作るのは不可能と判断した。彼が油断した時、そうだ、彼も色責めに参加するに違いない。彼とて淫情のさなかにあれば、身構えが崩れることもあるだろう。
「あ、あの……、一体何を……」
「ん? 新顔の秘書さんが怪しい動きをしているのでね。事情を訊こうとしてるですよ」
「そ、そんなっ! 私、何もしていません」
 悲しかったこと、悲しかったこと……、オリンピック選考前に怪我をした時は、ほんと神様を恨んだなぁ……。
 香菜子の頬に涙粒が垂れてくれた。顎から落ちるときに殊更に鼻を啜ってやる。
「お、お願い、解いて……、ください」
 取り囲む褌連中から下卑た笑いが起こった。中には涙する香菜子を眺めつつ、褌の中に手を突っ込んで勃起を慰めては腰を震わせている者もいた。
 本当に馬鹿だ。香菜子は男たちを心底蔑み、醜いという点ではまるで区別がつかない彼らの中で、今しがた自分を鑑賞して自慰をはたらき始めた男の、一際目を逸らしたくなるデップリとした肉づきと体毛の濃さを憶えておくことにした。もし逃げ出す前にチャンスがあったら、訓練で教えてもらった蹴りを一発お見舞いしてやる。


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