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梟が乞うた夕闇
【鬼畜 官能小説】

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-1



 自分は今、夢を見ている。
(陽介……)
 香菜子自身、よく分かっていた。分かっていながら、この麗おしく心地よい夢見に漂っていたかった。
 夢は甘美な記憶の再生だった。暗くした部屋、深く身が沈むキングサイズのベッド。陽介に抱きしめられ、その胸板と肌が擦れ合うだけで、背筋をゾクゾクと爽感が走った。目尻からこめ髪を小さな粒が伝い落ちていく。嬉し涙なんて流してしまっている自分が恥ずかしい。
 添い臥した陽介は優しい手遣いで香菜子を横抱きにすると、腕枕の指先で髪を梳き、もう一方の手で誰にも触れさせてこなかった女の膨らみを揉みほぐしてきた。巨乳の女の子は陽介の周囲にもたくさんいるだろうから、自分のようなペチャパイを相手にさせて済まない思った。
 だが愛撫を施してくる陽介の手には、そのような失望は微塵にも感じられず、むしろ愛しみを滲ませて揉みほぐしてくれた。だから何かに引っ張られているかというほど充血して勃突した乳首が彼の爪先に弾かれただけで、香菜子の肢体は弓反りになり、まだ始まったばかりだというのに閉じ合わせた脚の間が驚くほど蜜にまみれていた。
 胸元から脇腹、下腹、そして指先が密やかに茂ったヘアの毛先を撫でて、はしたないほどヌルヌルになってしまった秘門へ近づいてくると、香菜子はあまりの恥ずかしさに力を込めて脚を閉じ合わせ、握っていたシーツを離して陽介の手首を留めようとした。
 しかし全く力が入らない。何の制止もできないでいる香菜子の狭間が縦になぞられ、クチュリという淫らな音が聞こえてくる。
 耳先が熱くなるまで赤面した香菜子は、ともすれば漏れてしまいそうな喘ぎを押し留め、見守ってくれている陽介に細かく首を振って縋った。すると陽介は微笑みで応え、懸命に結んでいる香菜子の唇を深いキスで緩ませると同時に、中指を更に強く押し付けて、蜜とともに漏れ出ていた媚肉を更に大きく音を立てて弄ってくる。秘割の端で鋭敏になっていた雛先が、意地の悪い親指に慈しまれた。
「ふぁあっ!」
 キスの狭間で甘ったるい声が漏れる。
 大学を卒業するまでずっと陸上に打ち込み、男の子とも体育会系のノリでしか接したことがなかった香菜子は、社会人になってから出会った陽介とも「仲の良い同期」として、性別を意識しないように、いや、させないように接してきた。
 しかし実は、初めて会った瞬間、自身でも朧げにしか頭の中で描けていなかった理想像が具現されたかのような彼の見映えに、胸を撃ち抜かれていた。
 香菜子とて、長距離選手として鍛えた手足が長くスラリとした肢体と、ショートヘアの似合う健康美溢れる清爽とした顔立ちで多くの人を惹きつけてきた。同じ学校はもちろん、他校の生徒からも、――男の子だけではない、女の子からもよく告白された。ただ当時の香菜子にとっては好きだのなんだのという感情は練習の邪魔だったし、女の子は当然として男の子と話していても、どうしても色っぽい雰囲気にはならない性格ゆえに、記録向上という目標を一つにする仲間、という感覚を越えることができなかった。
 いつか好きな男ができるだろう、そう思っているうちに大学卒業を迎えてしまった。さすがにこの歳になってもまだバージンであるのはマズくないか、と内心苦笑いすることが多くなった。
 そこへきての一目惚れ。自分がそんな情動に駆られるとは思ってもみず、どう取り計らってよいか分からなかった。
 陽介と話すと鼓動が痛くなるのに、これまで一緒に過ごしてきた男の子を相手する時と同じように、半ば防衛本能的に「色恋沙汰に興味の無い女」を偽装してしまう。そして一度そうしてしまうと、続けねばならなく、次第々々に香菜子を苦しめていった。
 しかし今、彼の腕に抱かれている。ピチャピチャという淫らな音はたまらなく恥ずかしいが、たまらなく幸せだ。
「恋人がいるなら別れなさい。好きな人がいるなら手遅れにならないうちに忘れたほうがいい」
 異動前から新しい上司がそう忠告してきた。
 確かに異動すれば陽介とは滅多に会うことができなくなる。その間に別の女の物になったら……、そう想像すると忘れるどころか狂おしくて仕方がなかった。
 胸の内を吐露してフラれてしまってもいい。いや、抜擢された職務に打ち込むためにもそうなったほうがいいのだろう。焦げ付くような苦しみから逃れるために、香菜子は陽介に想いを伝えたのだった。
 思った通り、陽介は自分を女として見ていなかった――「でも嬉しいよ」。


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